エコモニタリングの成果から

森の生産量と二酸化炭素の吸収・固定


物質の動き
図:光合成・物質循環概念図
太陽からのエネルギーを受け止めて光合成した物を、人間はじめあらゆる生き物に提供してくれるのは植物です。植物が環境から原料をもらって光合成し、それが植 物の成長、動物の成長に利用され、落ち葉や枯死物、排泄物や死体などの生命を失った生物体を、微生物が腐らせて元の光合成の原料に戻して環境へと戻す、この動き を物質循環といいますが、森林という緑の工場では、この過程が実にうまく作動しています。エコモニタリングはその実態を教えてくれます。
緑の森の生産量
図:生産量概念図
ある期間内の光合成による生産物(有機物)の総量のことを総生産量と言います。しかし、樹木も呼吸をしますから、呼吸で使われる量を差し引いた残りが実際に植物の体となるわけです。それを純生産量といいます。
総生産量 - 呼吸消費量 = 純生産量

しかし、枯れ落ちるもの(枯死量)があり、動物に食べられる分(被食量)もありますから、それらを差し引いたものが実際の植物体の増加、すなわち、
純生産量 - 枯死脱落量 - 被食量 = 植物体増加量
∴ 純生産量 = 植物体増加量 + 枯死量 + 被食量
ということになります。

フォレスタヒルズでは、エコモニタリングとして毎年木の太さや高さを測定しています。そのデータで毎年の森林の植物重量(絶乾重)が計算できますから、2 度の調査があれは、その間の植物体増加量が求められます。一方、その間の枯死脱落量も実際に測定されています(リタートラップ)。被食量は、森林の場合は 僅かで、ふつう純生産量の数%程度ですが、枯死量調査の時に虫フンなどを分けて計っておくと推定がききます。
とすれば、森林の純生産量が概算できるわけです。一例を挙げましょう。
未整備林の例(10年間を1年あたりに換算、トン/ha/年)
純生産量(5.6) ー 枯死量(1.6) ー 被食量(0.3) = 植物体増加量(3.7)

写真:落葉分類の落葉
[落葉]
写真:落葉分類の花
[花]
写真:落葉分類の虫フン
[虫フン]

二酸化炭素吸収・固定
生産量
こうした物質の収支の数字は、森林が大気中の二酸化炭素を吸収するという最近の話題に対応できます。森林がいくら沢山二酸化炭素を吸収したとしても、それが植物体として溜め込まれないと意味がありません。したがって、肝心なのは植物体増加量なのです。

先の未整備林の例で計算してみますと、純生産量5.6トン/ha/年は3.1トン/ha/年の炭素量に換算できるので、それだけの炭素を吸収したことに なりますが、この中には腐ってすぐに炭素放出に回る枯死量相当分を含みます。実質重要な炭素固定量に当たるのは植物体増加量3.7トン/ha/年で、これ は炭素量に直すと2.1トン/ha/年ということになります。
なお、この炭素量は二酸化炭素にして7.7トン/ha/年。これは、人間21人分の呼吸放出量に当たる計算になります。

ついでながら、原生林のような成熟した森林では、毎年純生産量に近い量が枯死脱落し、植物体増加量はゼロに近づきますので、炭素固定に働くのは植物体増加量の大きい未成熟の若い林、ということになります。

○若い林と成長した林
植物体の増加量
植物体の増加率
トヨタの森では、里山をいろいろなパターンで維持管理しています。
その中で、この二酸化炭素の固定量の増加、すなわち森の植物体の増加量のスピードが速いのは、もともとの植物体が小さい若い林でした。
一方、最初からある程度大きい林は増加スピード(増加率)は若い林より、小さくなるものの、林全体としての増加量は大きい傾向にありました。
○整備の効用
植物体の増加量を、維持管理が異なる「整備林」と「未整備林」とで比較してみると、整備林の方が植物体の増加量が大きいことが分かりました。
図に示すように、整備林に比べると、この10年の間に未整備林は枯れて失われてしまう植物体がある(マイナスの年)ため、この分だけ植物体の増加量が減少することになるのです。
な らば、整備林のように定期的に手を入れて間伐し、その間伐材を枯らしてしまうのではなく、木材製品や炭にして活用すると、木材製品として使われている間や 炭やエネルギーにしてその分、石油を使わなかった分だけ、人間社会からの二酸化炭素の発生を抑えることにつながります。
整備の効用 整備林

整備の効用 未整備林

○大径木の効用
ト ヨタの森で里山をいろいろなパターンで維持管理している中でも、最も植物体の増加量が多い林は、「コジイ林」です。この林は、地域の人が直径93cmに もなる大きなコジイを神聖な木として残してきた周りに、まだ小さな直径20cm以下の木々が約95本と直径20〜40cmの木が約10本生育している林で す。
このたった1本の直径が93cmのコジイは、実はこの林の植物体の増加率の約5割を占めています。植物体が大きくなるのに、大径木(直径の大きな木)はとても効率が良いのです。
大径木の効果
大径木の割合
コジイ林の直径別本数コジイ林の植物体の増加に占めるコジイ1本の割合

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