エコモニタリングの成果から

吉田池ー貧栄養湿地の10年



○植物たちのなわばり争いー10年の変化
貧栄養湿地の生物多様性と保全
吉田池の貧栄養湿地にはたくさんの希少な植物が生育しています。
それらの植物は、生きる場所を求めて生存競争(なわばり争い)をしています。
この10年間、貧栄養湿地の植物の分布を年ごとに調査することによって、この植物種の生存競争も思ったより、激しくそして大きく変化していることが、分かりました。
湿地の生物多様性は、このような生物の生存競争の結果といえます。生存競争ができる土地の余地があること、ある特定の種が勝ちすぎないように手入れをしていくことが、貧栄養湿地を保全していくために必要です。
貧栄養湿地の種変化
10年間の希少な植物の個体数変化

【この10年間の変化】
徐々に増加した種     :コモウセンゴケ、ミズギボウシ、ノハナショウブ
増加した後減少した種   :シラタマホシクサ、ヘビノボラズ
徐々に減少した種     :シデコブシ、ホザキノミミカキグサ
ほとんど変わらなかった種 :クロミノニシゴリ、サワギキョウ
植物たちのなわばり争い
植物同士の縄張り争いの記録の中から、代表的なものを示します。
【明るく貧栄養な立地を取り合う種同士】:
コモウセンゴケとホザキノミミカキグサ、それに影響を与えるシラタマホシクサ

1999年
コモウセンゴケとホザキノミミカキグサ99
コモウセンゴケとホザキノミミカキグサは似たような立地を競い合う種類です。
左上のホザキノミミカキグサが生育している場所は前年はコモウセンゴケが生育していました。
この年、中央部にはコモウセンゴケとホザキノミミカキグサが小規模に生育しています。
このときシラタマホシクサは中央より右下にまだあまり大きくない群落として広がっています。
↓ なわばり 凡例1
2001年
コモウセンゴケとホザキノミミカキグサ2001
2年経ち、シラタマホシクサが大きく分布を拡げるのに伴い、中央にはコモウセンゴケの群落が大きくなりました。
一方、ホザキノミミカキグサは中央の生育地を追われ、左上の生育地も他の植物にとってかわられました。
↓
2003年
コモウセンゴケとホザキノミミカキグサ2003
さらにシラタマホシクサが分布を拡げました。
その下部でコモウセンゴケの群落も広がり、一つの塊となることで、シラタマホシクサの立地奪取の勢いに耐えています。
このときホザキノミミカキグサの生育は見られなくなりました。
矢印下2
2005年
コモウセンゴゲとホザキノミミカキグサ2005
シラタマホシクサの植生の塊が分割されました。
それに伴い、コモウセンゴケも分布を縮小するとともに、左上の立地を他の植物から奪い返し、分布を拡げました。
その中にホザキノミミカキグサの生育が左上の立地と中央部の立地に小さく復活しました。
矢印下2
2007年
コモウセンゴケとホザキノミミカケグサ2007
シラタマホシクサの分布が縮小してきました。
コモウセンゴケ及びホザキノミミカキグサも中央と左上の立地を維持しています。
【少し安定した立地を取り合う種同士】:
シラタマホシクサとミズゴケ
前述のように、コモウセンゴケとホザキノミミカキグサの生育に影響を与え続けているシラタマホシクサですが、シラタマホシクサ自身もミズゴケと熾烈な生育地争いをしてます。
1999年
シラタマホシクサとミズゴケ1999
中央より右下にシラタマホシクサとミズゴケが重なりあって分布しています。

矢印下2
なわばり凡例2
2001年
シラタマホシクサとミズゴケ2001
シラタマホシクサが大きく分布を拡げていきました。
ミズゴケも中央より右上で分布を拡げていますが、右下の分布域はシラタマホシクサにすっかり覆われています。
矢印下2
2003年
シラタマホシクサとミズゴケ2003
さらにシラタマホシクサが分布を拡げています。
右下のミズゴケの分布域は2つに分割しました。ここではやはり上をシラタマホシクサがすっぽり覆っています。
矢印下2
2005年
シラタマホシクサとミズゴケ2005
この頃から貧栄養湿地の安定化が顕著になってきました。
分 割した中央右下のミズゴケは上部のミズゴケ生育地とくっつくように生育地を拡げています。また、中央部右下でシラタマホシクサで覆われていたミズゴケは自 らの植物遺体を積み上げることで高さを増し、シラタマホシクサより高い位置まで達し、シラタマホシクサの覆いをはねのけました。
矢印下2
2007年
シラタマホシクサとミズゴケ2007
ミズゴケはさらに植物遺体を積み上げ、横にもつながりながら生育地を拡げています。
シラタマホシクサの分布域はミズゴケに押され、徐々に減少しています。

10年間ほとんど生育位置やその個体数が変わらなかった種のクロミノニシゴリ、サワギキョウは比較的安定した立地に生育する種です。
そ の他の植物は、水分環境や日当りといった環境条件が変わりやすい不安定な立地に生育しています。そのため、ちょっとした環境条件の変化に大きく影響をうけ ますが、気候や管理といった物理的条件の変化だけでなく、近接して生育している植物も、その環境条件を変える大きな要因になります。

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