デザイナーの想いをクレイに込めて。松田 章 - クレイモデラー

Work Style

触らないと見えてこないこと。

私はクレイに携わって、30年以上になります。クレイというのは工業用粘土のことで、デザイナーのアイディアスケッチを具現化、つまりクレイモデルにする仕事です。最近はベテランとしての立場から、2通りの役回りをしています。最初のデザイン検討段階から参画する場合と、プロジェクトにアドバイザー役で入る場合と。

いずれにしろ私がまずやることは、クレイを触ること。一度、自分でカタチにしてみます。スケッチを眺めたり話したりするだけでは、デザイナーの狙いをどうすれば表現できるのか、解決策が十分に見えてこない。だからまず、触ってみる。触ることで、造形的に難しい箇所やデザイナーのこだわりを、どうすれば具現化できるのかのヒントが見えてくる。そうすると、デザイナーと自信を持って意見交換できるようになる。手間だと思うかもしれませんが、私にとってこれが一番早い。30年以上経っても、基本はまず触ることだと思っています。

クルマは『軸』で決まる。

クルマの造形は、いくらアイディアが優れていても、立体に『軸』が通っていないと、かっこよく見えません。人間と同じですね。スタイルがよくても、姿勢が悪いと美しくない。デザイナーが描く二次元的な軸を受けて、クレイモデルでの『軸』を、うまく通すのも私たちの仕事です。ただし立体には、たとえば、サイドばかりでなく、斜めや真俯瞰の視点もあり、視点の数だけ軸がある。さらに、コンセプトやクルマのキャラクターによって、通し方も変わってくる。今でこそ、頭の中でイメージできますが、「『軸』の通し方」を読み取れるようになるまでは相当な訓練が必要でした。

デザイナーは、自分のアイディアをもっと良くしたいから、必死です。だから私も、デザイナーの想いをカタチにするために、軸の通し方や面の造り方を、必死になって考える。本来は世に出るべきアイディアが、クレイの出来で消えてしまうのは避けなければならない。だから私は、つねにベストを尽くしています。

デザイナーだけでは、造れない。モデラーだけでも、造れない。

いいクルマを作るには、デザイナーとクレイモデラーは対等でなければならない、と思っています。お互いの意見や想いを言い合える。だからこそ、アイディアが広がるし、クレイの完成度も高くなる。その結果、いいクルマになる。そういった意味では、トヨタはユニークな会社だと思います。暖かいけど、時には厳しく、でも精神的には対等。トヨタのデザイナーは、クレイモデラーの声に耳を傾けてくれますから。「もう少しこうすればアイディアが活きる」というと部長も聞く。逆に「どう思う」と、クレイモデラーにも意見を求めてくる。

お互いを認めているのだと思います。だから私は、アイディアを具現化するためのアドバイスはしても、アイディアには絶対に口を出しません。デザイナーを尊敬していますから。デザイナーも、私たちを尊敬してくれている。この信頼関係こそ、トヨタデザインの強み。これは私たちの財産として、ずっと受けついでいきたいですね。

Life Style

チームでやり遂げる快感。

クルマの開発は、チームスポーツに似ています。能力が優れた人を集めても、それぞれの得意領域が同じではうまくいきません。個人能力よりも、チームワークが大切ということです。私が大学時代夢中になっていたバレーボールの場合、みんなエースアタッカーになりたがるけど、全員がエースだと困るわけで。エースが何人いても、レシーブやトスのできる人がいないと、結局は勝てない。

クルマづくりも同じです。任されたポジションで、各々が個性を発揮すればいい。デザイナーがアイディアを考え、クレイモデラーがカタチにする。なかなかモデルが進まない時があっても、みんな同じベクトルに向かっていれば、「これで絶対にいける!」という瞬間がきます。その時の一体感は、それはもう最高ですよ。チーム一丸となって、勝利を確信した時のような快感です。当然、モデルも最高の出来になるのは言うまでもありません。

目標は、生涯現役。

トヨタには、例えば64歳でも現役で活躍しているデザイナーがいます。ただ技と知識があるだけではありません。若手のデザイナーに対しても、“今”のアドバイスが出来る。デザインについて、常に勉強していなければできないことです。気力や熱意がものすごい。車のデザインにかける想いが違いますね。私もそんなクレイモデラーであり続けたいですね。生涯現役にはこだわりたい。そのためにも、身体には気を使っています。私の資本ですから。

クレイモデラーは、長時間立って作業するので、意外と体力を使うんですよ。だから、ジョギングもするし、自宅から20~30分かけて歩いたりもしています。先輩たちが残してくれたノウハウも教えなければいけないし。何よりもデザイナーと私たちの関係を伝えたい。トヨタデザインの強み、伝統だと思っていますから。ずっと残していきたいと思っています。そういった意味でも、生涯現役にこだわる。自分にできるだけのことはしていきたいですね。

インタビュー


  • サイモン・ハンフリーズ
    ジェネラル・マネージャー


  • 藤原 裕司
    エクステリアデザイナー


  • 松田 章
    クレイモデラー


  • 本崎 正規
    デザイナー


  • 堀部 和雄
    木型モデラー


  • 宍戸 恵子
    カラーデザイナー