
カラーデザインとは、ボディやインテリアの色と素材をコーディネートする仕事です。私の場合、新しい色や素材を直感で発想して、後から、時代背景やデータと照合すると、案外自然にロジックが組みあがります。それは普段からお客さまの嗜好や色別シェアなどのデータが頭に入っていたり、時代の気分を感じているからかもしれません。
一般的には、カタチのデザインが先行でカラーデザインは後と見られています。その発想を転換して、「カラーデザインがクルマをプロデュースする」ことで、まったく新しい魅力を引き出せるのではないか、と考えています。つまり、カラーデザインの視点から発想するような造形を作れば、今までのクルマにはない新しいカタチが生まれる、ということです。たとえば、素材や色の特徴を活かすカタチや空間を考えてみる。それこそ、色とマテリアルの組み合わせは数え切れないほどありますから。カラーデザインには、無限の可能性があると感じています。
以前、'05年の東京モーターショーで提案した、「i-swing」という1人乗りの車があります。若い男の子や女の子がコンビニに行くときにも乗れる、生活空間に自然とある、そんな身近なキャラクターを目指しました。感覚的には、いつも一緒にいるパートナーのような存在です。だから、カラーや素材も着せ替え感覚で、その日の気分や天気によって選べたらいいな、と考えていました。だから、カラーや素材は、なるべくファッションに近づけたかった。そこに、お客さまの目線やトレンドなど、客観的視点を加えて発想したのが、絞り染めや花柄を手書きタッチで表現した着物風デザインなのです。
自分の趣味やセンスに照らし合わせ、関心を持ってもらえるカラーや素材を選ぶことで、フューチャリスティックなプロダクトを身近に感じてもらうことができたと思います。カタチではできないことをカラーで織り込む。それは、時代の空気をとらえて、よりパーソナルなお客さまの心地よさや満足感に落とし込む仕事。カラーデザインならではの醍醐味だと思います。

トヨタデザインとしての在り方、それは、マスプロダクトとしてのクルマを、あらゆるニーズに向けて、できる限り最適なカタチで完成させることです。究極的には、「お客さま一人ひとりに合わせたクルマを提供していきたい」という考えがあります。そういう意味では、トヨタデザインを具現化できる大きな役割を、カラーデザインが担っているのかもしれません。
たとえば、クルマが1車種の場合でも、数色のエクステリアカラー、インテリアカラーがあれば、数多くの組み合わせの中から、お客さまは好みのコーディネートを選ぶことができるのです。私たちの生活には、色が溢れています。好きな服を着て、お気に入りのインテリアに囲まれて。色とりどりのお料理を食べる。クルマもそんな感覚で選べるように。これからのトヨタのカラーデザインに、ぜひ期待してください。
オフの日には、よく美術館に行ったりします。勉強というわけではなく、好きなんですね。作品も、それが置かれている空間や建物も。ただ、図らずも仕事のヒントになることもあります。たとえば、古典、現代美術に限らず、作品のモチーフや構図とかに「これかも」と思うことも。ほかにも、光の演出で空間を広く見せる工夫をクルマに応用して、車内も広く見せられないかな、といった感じで、建物自体に刺激を受けることもあります。
美術館に来る人なら、皆さんもきっと、いろいろと感じているはず。私が特別なわけではないと思います。ただ、「なぜだろう?」と思って観察したり、いろいろと確かめたり、クルマに置き換えたりしたくなるのは、人と違うのかなと。無意識にアイディアをストックしている。そんな感覚なのかもしれません。きっと、カラーデザイナーの習性ですね。
私の場合、普段から、ちょっと人と違う視点でモノを見ているところがあります。たとえば街中での人間ウォッチング。気がつくと、道行く人の共通項探しをしていることがよくあります。「さっき見た人と、あそこに座っている人は同じテイストだ」とか、「見た目はぜんぜん違うけど、持っているものが同じだ」といった具合に。勝手に分類を始めたり、あれは今求められているテイストなのかもしれない、と推測したり。つねに「なぜ?何?」を繰り返している状態。カラーデザイナーの好奇心でしょうか。無意識のうちに、敏感になっているのかもしれません。
実際、この好奇心がなくなると、きっと困ると思います。普段から思考訓練をしていないと、いざカラーや素材を選ぼうとしても、すぐにアイディアは出てこないものですから。すべての「なぜ?なに?」の結果が、アイディアになるわけではありません。でも、カラーデザイナーとしては、こうした好奇心や探究心が、役に立っていると思います。
カラーデザイナーは、芸術家ではありません。クルマという商品の開発ですので、決められた条件の中で考えていかなければなりません。時間内に最高のアイディアを出していくことも求められます。そして何より、お客さまのニーズに応えるものでなければなりません。
必要なのは、お客さまの目線で考えたことを、プロのスキルで妥協せず実現することだと思います。世の中のトレンドや流行色、時代の雰囲気から、お客さまの気持ちを感じ取る目線。マーケティングデータや過去の販売実績を冷静に見極め、クルマというプロダクト独自の条件をクリアしながら、カラーデザインに落とし込むプロとしての力量。たとえ片方が優れていても、両方を持っていないと、本当にいいカラーデザインは生まれないと思います。
お客さまは本当に、この色や素材のテイストを求めているのか、このクルマを必要としているのか。「自分」というフィルターを通して、いつも立ち返るように心がけています。