編集後記

75年史の編纂が正式に決まったのは2006年秋の副社長会である。その後直ちに社会貢献推進部博物館室(現在の歴史文化室)社内史料グループが事務局となり、全社で約30ある本部の本部長を編纂委員とする75年史編纂委員会を発足させた。編纂委員会は毎年2回開催され、編纂方針、内容の審議や掲載メディアの選択、進捗や予算消費に関する報告が適宜行われた。

当社にとって社史編纂は1987年に発行した50年史以来25年ぶりの作業となった。早い段階で大日本印刷(株)様への委託が決定し、連携して本史の企画を進めることになった。一方で、事務局に全社からの情報を集約する仕組みとして、各本部の総括担当(マネージャークラス)で本部史事務局会議を組織した。

本編・資料編を通した全体のテーマを「もっといいクルマをつくろうよ」と決めたのは2010年になってからである。2009年、逆境の中でバトンを受けた豊田章男社長が、船出にあたり社員に向けて語ったこの言葉こそ、トヨタが75年間ひたすら続けてきた営みをひとことで表すには最もふさわしいと考えたからである。

編纂にあたっては、以下の3点を念頭に置いた。
第一に、読みやすい年史であること。本編は極力文字量を減らし、50年史の8割程度に抑えた。資料編も写真・表・グラフを多用するよう心がけた。トップページのデザインにも随分腐心した。
第二は客観性。本編では過去の社史に書かれている部分も含め、徹底的に原典にあたり事実確認を行った。そのため、過去の年史と齟齬が生じている点がいくつか出てきたが、その旨は脚注で明記した。
第三は網羅性である。50年史以降の25年間の業容拡大と地理的な広がりは、収蔵すべきデータ量を膨大なものとしたが、電子媒体の特長を活かし収録が可能となった。初めて挑戦した車両系統図もあわせ、資料編は辞書としても十分活用いただけるものになったと自負している。検索機能も電子媒体のメリットを生かしたものである。

今後の課題も明らかになった。グローバルに分散する情報の扱いである。オペレーションの現地化が進むなかで、今回は国内にある情報でなんとか執筆・編纂することができた。しかし、今後は恐らく全世界の事業体から情報を集めないと社史編纂はなしえないと思われる。コーポレイト・アーカイブの在り方を含め将来の検討課題と考える。

約7年にわたるプロジェクトを振り返ると、2008年以降はリーマン・ショックをはじめとする経営環境の激変により、当社の大きなプロジェクトが中止や延期に追い込まれた。社史編纂事業に関しても、これだけ混乱が相次ぐなかで75年間を締めくくることができるのかといった危惧を本気で抱いた時期もあった。しかし、結局中止の声は一度も聞かれなかった。

考えてみれば、社史を編纂する重要な目的のひとつは、次世代を担う若い社員や将来の社員たちに会社の真髄を継承することである。言い換えれば、創業の精神やその後定着した企業文化・風土を分かりやすく伝え、感動とともに会社に誇りを持ってもらうということである。

編纂を終えてつくづく思うことは、会社が困難に直面しているいまこそ、この作業には価値があったのではないかということである。

トヨタ自動車75年史 編纂委員会 委員長 布野 幸利

トヨタ自動車75年史 編纂委員会 委員長
取締役副社長

布野 幸利

2012年11月

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