おかげさまで、トヨタ自動車が誕生して今年で75周年を迎えることができました。世界中のお客様をはじめ、仕入先や販売店、関係会社の皆様のご支援や従業員の努力の賜物であり、厚くお礼申し上げます。
当社の創業者である豊田喜一郎は、父佐吉から「研究と創造の精神」を受け継ぎました。日本が貧しかった昭和の初期、モノづくりを通じて欧米のように国を豊かにしたいという気持ちは、この時代に生きた誰もが抱いた、言わば時代の気概であったかもしれません。しかし、考えることと実行することとは天地の開きがあります。本気で自動車事業に挑戦した人はごく僅かでありました。
当時は基礎技術も今のように優秀な技術を持つ関係会社もありませんでしたから、すべてのことを自分たちで勉強し、部品から一つひとつ自前でつくり上げていきました。その際、喜一郎は徹底して現地現物を貫きました。工場で技術者の手を見て、油まみれだと機嫌が良かったそうです。また彼は「自動車は一技師の道楽ではできません。幾多の人々の苦心研究と各方面の知識の集合と長年月に亘る努力と幾多の失敗から生まれ出た」とも述べ、チームで事を成し遂げたことを強調しております。
とは言え実際の生産現場は試行錯誤の連続でした。朝つくった部品が夕方には設計変更されてムダになります。「必要なものを必要なときに必要なだけつくる」ジャスト・イン・タイムによる生産は、こうした切羽詰まった事情で始まったのです。
その後生産現場では「良い品を安くつくる」ために、日々カイゼンを積み上げる風土が根付いていきました。それを支える考え方が人間性の尊重です。愚直にコツコツ努力をする、そして自分の頭で現場の改善を提案できるヒトをつくる。これが「モノづくりは人づくり」と言われる所以です。
80年代中頃から、米国で本格的な海外生産が始まり、生産拠点も一気に海外に広がりました。以来、トヨタはグローバル企業へ脱皮する過程で様々な異なる価値観と出会い、戸惑いながらも手探りで道を切り開いてきました。これがうまくいったのは幸運もあったのでしょうが、喜一郎の創業の精神と先達の築いた企業風土がグローバルにも通用するものであったからだと思います。いま世界各地の仲間がトヨタウェイを理解し、実践し、日々高品質のクルマづくりへ挑戦してくれていることは本当に嬉しくまた頼もしく思います。
トヨタはこれからも良品廉価なクルマづくりを通じて、世界各国の経済・社会の発展に貢献してまいる所存です。関係各位には、重ねて75年間のお礼を申し上げますとともに、今後も一層のご支援を賜りますようお願い申し上げ、75年史刊行のご挨拶とさせていただきます。