社長メッセージ

平素より、当社への格別のご理解とご支援を賜り、誠にありがとうございます。

持続的成長を支える「もっといいクルマづくり」と「人材育成」

私たちは、リーマン・ショック後の赤字転落や米国に端を発したリコール問題などを通じて、「身の丈を越えて急成長をしたとしても、急降下をすれば、多くのステークホルダーの方々にご迷惑をおかけすることになる」ということを身をもって学びました。

お客様や投資家の皆様をはじめとする、すべてのステークホルダーの皆様を大切にするためにも、私は、トヨタという会社を「どのような環境でも持続的に成長していける会社」にしなければならないと思っております。木の成長に例えますと、未来の「果実」を見据え、一年一年着実に年輪を重ねることで、少しずつ大きく、太くなっていくような経営、すなわち「年輪経営」を進めてまいります。

本年5月の決算発表の際に、今期に対する私の想いとして、「自分たちの等身大の姿を真正面から見据え、徹底的に競争力を磨いていく年にしたい」と申し上げました。ここでいう「競争力」とは、コストや生産性のような数値として表れるものだけではありません。「もっといいクルマをつくりたい」、「世の中をもっと良くしたい」という情熱を持ち、現地現物で、日々、改善に取り組む人材の育成など、目に見えない競争力を磨くことが大切だと思っております。

こうした人材の育成を目的とした活動に「五大陸走破プロジェクト」があります。2014年にオーストラリア大陸からスタートし、2015年と2016年は北米と中南米をあわせたアメリカ大陸、そして、今年は欧州大陸の走破をめざします。オーストラリアでは80人だった仲間が、今年の欧州も含めると4年間で約500人まで増えました。

参加したメンバーの感想です。
「テストコースで社内基準をクリアしたクルマを実際の使用環境で長時間走らせると、クリアしたはずの音でも気になるところがあった。データだけでは分からないことがあるということを肌で感じた。」
「北米大陸では、故障したら生死に関わる環境で日々過ごす人がいて、壊れない、故障しないクルマが絶対的に必要。お客様にはその一台が生活と命を預ける相棒であることを忘れずにいたい。」
「クルマに対する知識が足りないことを痛感した。(事務系職場の)自分はエンジニアのようにクルマと語ることはできないけれど、皆が何を考えて運転しているかを知れたことは貴重だった。自分の会社人生が変わった2週間だった。」

そして、帰国したメンバーに対して、私が必ず言うことがあります。
「あなたたちは、実際の道を走り、会話をし、道のこと、クルマのこと、使う人たちのことを、自分のセンサーで感じてきた。カタコトの外国語で、各地域の仲間と会話し、伝えたこと。それが物事の本質だ。カタコトだからこそ、本質が伝わる。データだけに頼るのではなく、自分のセンサーで感じたこと、物事の本質を、もっといいクルマづくりに活かしてほしい。トヨタ自身がつくっている壁を、あなたたちに壊してほしい。」

お客様と同じ道を走り、「クルマ」と「道」との会話を重ねたメンバーが、職場に戻って、その経験を後輩たちに伝え、自らのクルマづくりに活かすというサイクルが回りはじめました。「道が人を鍛え、人がクルマをつくる」。そのことを肌で感じる仲間をこれからも増やしていきたいと思います。

「未来へ挑戦」

現在、クルマは、人やコミュニティとつながり、社会システムとしての役割が期待されています。特に、AI、自動運転、ロボティクス、コネクティッドなどの新しい領域が重要な要素となり、「ただ優れたクルマ、優れた技術を開発すればいい」、「これまでどおりの販売・サービスを続けていればいい」という時代ではありません。

そこで、新たなジャンルに取り組むには、従来の組織ではなく新しいチームで対応していくことが大切であると考え、2016年1月、ギル・プラット博士をCEOに迎え、Toyota Research Institute, Inc.(TRI)を設立しました。

私が博士と初めて会ったのは2015年8月のことです。
「なぜ、トヨタに来るの?」という私の問いに対し、答えは極めてシンプルでした。
「痛ましい交通事故をなくし、社会に貢献したいからです。」
また、TRIの設立を発表した記者会見で、彼はこう言いました。
「ハードウェアで成功したトヨタが、ソフトウェア技術と融合した新たな企業に生まれ変わることで、社会に大きく貢献できると信じています。だから、私はトヨタの一員になったのです。」

彼と一緒にやってみよう、やってみたい、と思ったのは、彼が偉大な研究者だからではありません。私たちトヨタとめざすゴール、そこに向かう志が同じだと確信したからです。

いま、私たちは、「未来のモビリティ社会」という誰も見たことのない世界、誰も登ったことのない山の頂をめざしています。前人未到の山を登るためには、新しい技術とその道に精通した「シェルパ」が必要不可欠です。ギル・プラット博士は、「私がシェルパになる」と言ってくれました。私は、彼にこう言いました。「あなたの後には、ベンチャー精神をもったトヨタの同志が続いていきます。もちろん、その先頭には私がいます。安心して、あなたの信じた道を進んでください。」

私たちのめざす山の頂にたどり着くのが、いつになるのか、この道は正しいのか、それは誰にも分かりません。分かっていることは、「頂にたどり着いた者にしか、その先に広がる景色は見られない」ということです。

TRIのほかにも、新しい領域を中心に、他社や異業種のパートナーとの協業や仲間づくりに積極的に取り組んでおります。これらの新しい仲間から謙虚に学び、力を合わせて取り組んでいくことにより、10年先、20年先を見据えて、より良い「未来のモビリティ社会」の実現にチャレンジしていきたいと考えています。

ベンチャー精神と情熱で未来を切り拓く

トヨタは今年80周年を迎えることができました。トヨタのルーツは自動織機であり、当時は、自動織機の会社が自動車をつくるようになるとは誰も予測しなかったと思います。

いま、私たちの前には新しいライバルが登場しております。彼らに共通するのは、「世の中をもっとよくしたい」というベンチャー精神です。かつての私たちがそうであったように、どの業態が「未来のモビリティ」を生み出すのか、それは、誰にも分からないと思います。ただ、間違いなく言えるのは、次のモビリティを担うのは、「世の中をもっと良くしたい」という情熱にまさる者だということです。

「もっといいクルマをつくりたい。」
「どんなにクルマが進化したとしても「愛」のつくモビリティであり続けたい。」
「モビリティ社会をもっともっと良くしたい。」

その気持ちにおいて、私たちトヨタは、誰にも負けないと自負しております。そして、未来は、決して自分たちだけでつくれるものではないと思っております。「同志」が必要だということも、裾野の広い自動車産業で生き抜いてきた私たちは、深く理解しているつもりです。物事を対立の軸でとらえるのではなく、新しい仲間を広く求め、情熱をもって、未来を創造していきたいと思っております。

私は、トヨタを単なる自動車会社でなく、「Human Movement Company」にしたいと考えています。「MOVE」という言葉には、人や物の「移動」という意味だけでなく、「感動」という意味もあります。「移動」そのものが、人々に「感動」を与えるものであってほしいとの想いを胸に、人間の移動すべてに関わっていく所存です。

最後に、私の信念を申し上げたいと思います。
「成長は持続可能でなければならない。」
「正しいことをすれば収益はついてくる。」
「お客様に日々笑顔になっていただき、期待を超えていかなければいけない。」
「BestなどなくBetterしかない。」
「ひたむきで情熱を持ち、どんなことも成し遂げる会社であり続ける。」
そしてトヨタは、「お客様の生活と社会全体の向上のため、常に最善を尽くします。」

ステークホルダーの皆様の変わらぬご理解、ご支援をお願いいたします。

2017年10月
トヨタ自動車株式会社 取締役社長

豊田 章男