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開発責任者が語る環境への想い クラウンチーフエンジニア 山本 卓 発売日:2012.12、取材日:2013.01

初代クラウンが誕生したのは1955年。以来、半世紀を越える永きにわたりトヨタ車の最上級モデルを担い続けており、7代目のキャッチコピー「いつかはクラウン」は今でもクラウンを象徴する言葉として引用され続けています。
そのクラウンが2012年12月、「新たな革新への挑戦」をテーマとして14代目のフルモデルチェンジを果たしました。大胆なフロントグリルと、伝統と革新を融合したスタイリングには、ユーザーのニーズも各所に盛り込まれています。

クラウンの歩みは、絶え間ない挑戦と革新の歴史。日本人のお客様を第一に考え、使いやすく親しみやすい真摯なクルマとして常に革新への挑戦を続けてきました。「時代の先読み」を取り入れた開発は、環境性能にも真摯に応えています。新開発直列4気筒2.5Lエンジンを搭載したハイブリッド車投入もその一つです。

そんな14代目クラウンの開発全体を指揮したのは11・12代目クラウンの開発にも携わった山本卓。その山本が、新しいトヨタの象徴として、変革を果たす信念を強く貫き通した14代目クラウンの環境性能を語ります。

(2013年1月撮影)

※プロフィール
クラウンチーフエンジニア 山本 卓
  • 所属: 製品企画本部ZS チーフエンジニア
  • 略歴: 1982年トヨタ自動車工業に入社。入社後、ボデー設計部にて設計を担当、1984年からは製品企画部門で初代LS400(セルシオ)、2代目LS400、11代目クラウンなどの企画・開発に従事。12代目クラウンでは開発主査として、初期の企画から開発を担当。以後、初代マークX、3代目アベンシスのチーフエンジニアを務めた後、2009年からクラウンのチーフエンジニアとして、13代目クラウンのマイナーチェンジ、そして、14代目クラウンの開発を指揮。

クラウンに求められるのは、高い車両性能のバランスの上にある環境性能

環境の世紀ともいわれる21世紀において、環境対応をどのように捉え、開発に取り組んでいますか。

私はトヨタに入社後、ボデー設計部でセリカのボデー開発に携わり、2年後の1984年からはおよそ30年間にわたり、製品企画部門でクラウンやセルシオといった『高級セダン』の開発に携わってきました。なかでもクラウンは11代目から開発に携わるなど、最も関わりが深く、そして思い入れのあるクルマです。

クラウンというクルマは常に時代に求められるニーズをいち早く盛り込みながらも伝統を大切にし、常に誰が乗っても満足いただけるクルマに仕上げることが開発コンセプトに据えられています。
クラウンのユーザーの方々もそういったコンセプトをよく理解していただいているので、レクサスが展開された今でもたくさんの固定ユーザーが代々乗り換えを続け、常にトヨタ車のなかでもトップクラスの人気を誇っています。

しかし、コンセプトを理解していただいているが上に、クラウンをはじめとした高級セダンに乗られるお客様はいろんなことを高い次元で求められます。それは静粛性や乗り心地であり、走りであり、その1つに燃費に代表される環境性能があります。
「いつかはクラウン」が「いつまでもクラウン」という存在であり続けているその価値は、高い車両性能のバランスの上にある環境性能にあります。決して環境性能が前面に押し出されることは望まれておらず、かといって高級車として中途半端な環境性能も受け入れていただけません。そんな難しいご要望に真摯に応えなければいけないクルマ、それが日本のお客様に愛され育てていただいたクラウンであり、グローバル展開されるレクサスとは立ち位置の違う、常に日本を考えた高級車としての環境性能の表現であるかもしれません。

最大のトピックはハイブリッドモデルの性能と価格設定

今回、ハイブリッド車を主力車として投入している理由を教えてください。

2003年に登場した12代目は「ゼロ・クラウン」として、高級感とスポーティーさを併せ持つクルマに進化しました。以来、クラウンは細部にわたり優雅な美しさを誇るロイヤルシリーズ、スポーティかつ上質な走りのアスリートシリーズをご用意しています。
エンジンのラインナップは、2.5Lと3.5LのV6直噴ガソリンエンジン、これにフルモデルチェンジの目玉ともいえるハイブリッド専用の新開発直列4気筒2.5Lエンジンを加えた3つのパワートレーンを取り揃えています。

今回、「デザインの革新」を強調した個性的で大胆なフロントグリルが話題になりがちですが、最大のトピックはハイブリッドモデルの性能と価格設定にあります。
先代にもV6・3.5Lエンジンを搭載したハイブリッドモデルはありましたが、価格設定が540万円~と高く、燃費も満足いただけないという声をいただいていました。結果、プリウスなど他のハイブリッド車に乗り換えるお客様もみられました。
「手に入る価格で燃費の良い高級ハイブリッドモデルが欲しい」。そうした声にお応えするためにも、クラウンユーザーが満足いただける低燃費とお求めやすい価格を実現したハイブリッドモデルの設定が開発責任者として必須だと考えていました。

今回のハイブリッドのエントリーモデルの価格は、先代のハイブリッドモデルと比較すると大幅に下げられたことになります。
エコカーは広く世の中に普及してこそその価値が発揮されます。多様なライフスタイルに適応し、ハイブリッド車の一層の普及を目指すためにも、今回のクラウンハイブリッドモデルがその一翼を担い、“いつかはクラウン”という憧れを、ついに“私のクラウン”という感動へ置き換えてほしい、開発にはそんな想いが込められています。

すべてにおいてV6以上の性能を引き出すことが少気筒ハイブリッド車の使命

ハイブリッドモデルを開発するにあたり一番大変だったことは何でしょうか。

新開発した「FRセダン専用2.5Lハイブリッドシステム」は効率を徹底追求し、熟成を極めたトヨタ史上最高の完成度を誇るハイブリッドシステムといえます。ハイブリッドならではのすぐれた静粛性や滑らかな加速感、それにハイパワーな走りと想像できないほどの低燃費はまさに新時代の高級車のためのパワーユニットといえます。
最大の環境性能といえる燃費はJC08モード23.2km/Lと、先代のハイブリッド車(3.5L)と比較すると約66%も向上したことになります。併せてCO2排出量も1km走行当たり165gから100gと、こちらも40%削減を実現しています。

こうした環境性能の主役は何といってもダウンサイズされた新開発直列4気筒2.5Lエンジンにあります。しかし少気筒化については社内や販売店の方たちから多くの反対意見がありました。「6気筒じゃないとクラウンじゃない!」「お客様に認めていただけない!」と。周りの方たちを納得させることがハイブリッドモデル開発の最大の課題でした。

クラウンの9、10代目のチーフエンジニアである大先輩にお話しした際にも、とてつもなく叱られました。しかし同時に、「14代目クラウンが発売される時代はこれまで以上に環境にやさしい時代になっているに違いない、その時代にあったクルマを目指しなさい」とアドバイスをくれたのもこの先輩で、この言葉が開発の信念になりました。また、欧州を中心としたダウンサイジングの潮流も少気筒化を後押しした要因の1つです。

反対意見を納得させるためにやるべきことはただ1つ。それはすべてにおいてV6以上の性能を引き出すことでした。その中には車両性能や環境性能とは違ったユーテリティー要素も含まれます。先代のハイブリッド車はトランク容量が小さく、ゴルフバッグは2つしか積めず、お客様からはご不満の声をいただいていました。
大改良として、小型化した駆動用バッテリーの搭載位置を見直し、補助バッテリーは床下配置するなどしてスペースを拡大しました。この改良だけでもパッケージ企画から開発にかなりの時間を要しましたが、お客様のライフスタイルを考えると当然のご要望であり、ハイブリッドモデルを主力に据える上でも必須の取り組みでした。

駆動系のバッテリーの搭載位置を50mm前に出し、トランクルームのスペースを確保

完成度が違う新ハイブリッドシステムは、新時代の高級車のためのパワーユニット

ハイブリッドモデルを中心とした環境性能について教えてください。

ハイブリッド専用の直噴2.5L直列4気筒ガソリン「D-4S」エンジンは、最大出力178ps、最大トルク22.5kgmを発生し、これに最大出力143ps、最大トルク30.5kgmのモーターを組み合わせます。数字だけをみるとすべてが先代よりも抑えられていますが、制御を見直すことでモーターのトルクを増強しています。また電気式無断変速機を採用するハイブリッド車では難しいとされるアクセル操作に対するリニアな走行感覚を、きめ細かな制御により実現するなどして、追越しではV6・3.0Lエンジン以上のパフォーマンスを発揮しています。

V6・3.5Lのハイブリッドはどちらかというと燃費性能よりも、「ハイブリッド車はパワフルで速い」という側面を前面に出すことで、クラウンユーザーにハイブリッド車が単なるエコカーであるという認識を見直していただきたかったという狙いがあります。ある意味、高級セダンのユーザーをターゲットとした独自のハイブリッド戦略といえます。
しかし今回のクラウンは、走りの性能はV6・3.0Lガソリンエンジン同等以上で、加えて少気筒化などによる軽量化でハンドリング性能も高く、環境性能も圧倒的に良いといった、世界でもひときわ輝くパフォーマンス性能を備えています。

新旧クラウン性能比較

  13代目(3.5Lハイブリッド車) 14代目(2.5Lハイブリッド車)
エンジン V型6気筒・3.5L L型4気筒・2.5L
出力 296ps 178ps
トルク 35.7kgm 22.5kgm
システム出力 345ps 220ps
モータートルク 28kgm 30.6kgm
燃費(JC08モード) 14.0km/L 23.2km/L

ハイブリッドモデルの環境性能向上の主な取り組み

  • 少気筒化等ダウンサイジングによる先代比約200kgの軽量化(V6・3.5ハイブリッド車→L4・2.5ハイブリッド車)
  • 従来、980Mpaだった高張力鋼板を最大1,500Mpaまで採用(軽量化)
  • アンダーフロアに整流フィンを多用し、空力性能を向上
  • 最新直噴技術「次世代D-4S」を搭載することで高出力と低燃費を高次元で両立
  • 新開発トランスミッションにより、動力性能と低燃費を高次元で両立
  • 世界最高の熱効率38.5%を達成

また、ガソリン車のトランスミッションはすべてATとの組み合わせで、2.5L車は6AT、3.5L車には8ATを採用しています。トヨタでは「小型車にはCVT、大排気量のクルマは多段ATの採用がベストマッチ」と考え、エンジンを熱効率の高い領域で使用することで低燃費を実現しています。

クラウンハイブリッドは環境問題への無関心が許されない立場にある方への最適解

手に入れやすくなったハイブリッドモデルは、今後どのような方に乗っていただきたいと考えていますか。

クラウンをお求めになる購入層で最も多いのは50~60代の方たちで、その中にはある意味社会的立場におられる方がたくさんいらっしゃいます。また法人契約をいただいている企業は役員の送迎などに使われることが多く、タクシーやハイヤーなども併せると1台当たりの走行距離は相当なものになります。
いずれにしても環境問題への無関心が許されない立場にある方が多く、また長距離走行を要求される場面での使われ方を考えると、クラウンのような高級セダンにこそ高い環境性能が期待されます。そういった意味でも、今回のハイブリッドモデルが果たす役割は大きなものがあります。

保守本流のイメージで見られることが多いクラウンですが、どの時代にも常に「革新」への挑戦を続けてきました。先進的で使いやすい、いつの時代も期待を裏切らない、思いやりや親しみやすさが凝縮された日本のクラウン。その存在はまさに、お客様や環境性能、安全・安心といった現代社会を取り巻く問題に対する真摯な態度の表れです。
国内専用モデルとして、クルマの性能や品質から価格に至るまで日本人のお客様のことを考え尽くして造られており、環境問題への無関心が許されない立場の方への最適解がクラウンハイブリッドなのかもしれません。そういった意味では年齢を問わず、環境意識が高く、問題意識を持ちながら自己を主張される30代、40代の方たちにももっと乗っていただきたいと思います。