「豊森(とよもり)」は、森を活用した人づくり、地域づくり、仕組みづくりを目指すプロジェクトです。行政やNPOとともに、森林の荒廃や農山村の過疎化など、中山間地域の課題に向き合い、都市と農山村の暮らしをつなぐ人材の育成を図っています。
愛知県豊田市にある「トヨタの森」では、1998年から「エコのもりセミナー」という講座を通して、里山の保全、循環型社会づくりに関わる専門的な人材の育成等を図っていましたが、2004年に終了しました。このセミナーの後継プログラムの検討をトヨタが始めた2005年、豊田市が周辺の6町村と広域合併しました。この広域合併によって、豊田市は市域の約7割が森林となったわけですが、行政サイドが市民の生活基盤として森林を重視するようになったことは、この後継プログラムの立案に大きな影響を与えました。
トヨタの森で取り組んできた里山、自然林はもちろんですが、林業の衰退によって荒廃が著しいスギやヒノキの人工林も含めた森林全体、矢作川流域圏全体の「地域づくり」を視野に入れた、人材育成を、後継プログラムの中心に据えることを決めました。
「豊森(とよもり)」は、行政である豊田市、ネットワークとノウハウのあるNPO、そして、豊田市に本社を構える企業・トヨタの三者協働で取り組む地域づくりのプロジェクトであり、地域の課題をコミュニティ・ビジネスを通じて解決するような人材を育成する講座が「豊森なりわい塾」です。企業単体の社会貢献活動の枠から飛び出し、地域の担い手のひとつとして、トヨタが地域デザインに真正面から踏み込んだことが、この豊森の大きな特長です。

大洞 和彦
社会貢献推進部 企画室
環境・社会活動グループ長

豊森は、地域に根ざしたビジネスを起こすことで、地域環境の改善を目指したわけですが、その時に大事なのはビジネスの知識や経験だけではなくて、コミュニティの中に信頼関係をつくって入っていくことだと、豊森なりわい塾の第1期(2009年5月-2010年12月)の活動を通じて学びました。例えば、地域の行事に参加したり、用事はないけれども時々顔を出して話をしたりしながら、少しずつ考え方を理解し合うことで、信頼関係を築くことが、まず必要なのだと。第1期では、豊田市全体をフィールドとして進めましたが、第2期(2011年4月-2013年3月)では、豊田市の北部、岐阜県との境にある旭地区を活動フィールドと決め、受講生と地域の方が信頼し合うコミュニティづくりに取り組んでいます。この点が、第1期と第2期の大きな違いです。
受講生は20代から60代まで幅広い層の方が参加していますが、第1期では考えていなかった家族での参加を認めました。当たり前のことですが、くらしをつくるためには、家族の理解が必要だからです。第2期では、ご夫婦で受講されている方が2組おられます。その他の受講者でも、なりわい塾に奥さんやご主人、お子さんを連れて来てもいいことにしました。すぐに子ども会が出来て、講座と併行して盛り上がっているみたいです。

環境保全型の地域づくりは、行政だけの仕事ではなくて、住民や学校、NPO、企業などの多様な主体が担うことで可能になると考えています。広く中山間地域を抱える豊田市で、地域の企業であるトヨタが、行政やNPOと連携することで地域づくりの一翼を担うことができるのはないか。それを実現することが現在の目標です。
豊田市は市域の約7割が森林というお話をしましたが、実は日本全体でも面積の約7割が森林であり、人工林の荒廃や農山村の過疎化など同じ課題を抱えています。この全国共通の課題を解決に導く手法のひとつを、この豊田市で、トヨタが参加することで、できるかも知れない。もし成果が出れば、同様の取り組みをする地域が他にも出てくるのではないかと期待しています。
地域の中で企業がどういう存在だったか、改めて考える良い機会になりました。これまでは、企業は存在してはいましたが、積極的に地域に関わるケースは少なかったのではないでしょうか。企業を取り巻く経営環境は大きく変化し、厳しさを増すばかりです。企業が存続する条件のひとつは、企業が地域に愛され、信頼されていることではないかと思います。そうなるためには、地域での様々な課題の解決に、企業や企業に勤める人々が積極的に関わっていく必要があります。トヨタは、環境分野で幅広く社会貢献プログラムを行ってきましたが、トヨタの森を含めて基本的には活動のフィールドは社有林でした。豊森は、地域に飛び込んだことがこれまでの活動と大きく違う点で、極めてチャレンジングな活動だと考えています。
豊森では、「くらし」「かせぎ」「つとめ」という、3つの価値観を大切にしています。山里で森の恵みとともに暮らすためには、多業で生計を立てていくとともに、地域で支え合う生き方が期待されています。豊森なりわい塾によって、そのような「豊森的な生き方」を身に付けた人たちが増えていくといいと考えています。

豊森なりわい塾の第1期では、最終的には受講生26名が10のプロジェクトに分かれて活動しました。これらの活動を進める中で、豊田市を中心とした地域には、「心身に障がいのある人が活躍できる、互いに助け合う地域社会づくり」「兼業農家が成り立つ、生産者と消費者との地域ぐるみでのネットワーク」「山への興味を失った山主の気持ちに寄り添った森林整備計画」などが地域の課題として存在し、解決が求められていることが分かってきました。
地域に入って課題を掘り起こし、地域に寄り添って解決を図るという豊森のアプローチは、間違っていないと感じていますが、解決に至るには当然時間がかかります。また、地域づくりに関わるということは、企業にも今までにない覚悟と責任が求められます。企業は人事異動で担当者も変わるし、少なくない費用を負担するわけですから、ある程度短期での成果を求められることも、宿命としてあるわけです。しかし、持続可能な仕組みができれば、企業が主体的に地域づくりに関わるモデルになると思いますし、豊森の取り組みを定着させるためにも、全国の先進的な事例からも学んでいきたいと思います。