モビ・レポ!モビリタを体験したゲストが語る安全の話 建築家・プロダクトデザイナー 黒川雅之さん 前編 黒川雅之さん
黒川雅之 プロフィール
職業:建築家、プロダクトデザイナー
生年月日:1937年4月4日
代表作:GOMシリーズ(ニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定される)
受賞歴:毎日デザイン賞、グッドデザイン金賞、など受賞多数
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ブログ「曼荼羅紀行」:http://www.designtope.net/kurokawa/
ホームページ「黒川雅之建築設計事務所」:http://www.k-system.net/
黒川雅之さん
1.環境と人とクルマ 2.安全とクルマの楽しさ
今回「モビ・レポ」のゲストとしてお招きしたのは、建築家・プロダクトデザイナーの黒川雅之さん。建築物や家具の設計に加え、ニューヨーク近代美術館の永久コレクションに選定されている「GOMシリーズ」、書籍の著作など、さまざまな分野での活動を目にしている人は多いはずだ。さらに73歳のいまも、自分でハンドルを握って自宅と事務所の間を移動するという。人生経験も運転経験も豊富な黒川さんは、まず「道具」について話し始めた。
photoクルマは身体機能強化の欲望から生まれた道具
「人間っていうのは、いろんな道具を発明してきました。それは人間の体の機能をより強化したいという思いからなんです。目を良く見えるようにしたいので眼鏡や望遠鏡を生み出しましたし、走るといっても足の力では限界があるので、もっと速く移動したいというときに、自転車が出て、オートバイが出て、自動車が出てきたわけですよね。つまり道具っていうのは、身体の機能を強化拡張するために生まれてきたんだと」
その考え方からいけば、身体と道具が一体になり、ボタンを押すと足の裏から車輪が出てきて走れればいちばんいいのだが、そこまで科学技術が進んでいないので、しかたなく別の状態で存在しているのが現状なのだという。
「だから大切なのは、道具と身体の一体感をどうやって手に入れるかということ。きょうモビリタで教わったのは、どうしたら人間とクルマとの一体感が得られるかという話が多かったでしょ。ドライビングポジションをこうしなさいとか、左足を突っ張りなさいとか。でも教わったとおりにすると、たしかにクルマと自分がひとつになれるんですよ。神野チーフインストラクター(以下神野CI)をはじめとするトヨタのテストドライバー出身のスタッフが、とんでもないスピードでテストコースを突っ走ったりしながら、手に入れた思想なんだなと思いました。しっかり哲学が入っています。思わずメモしちゃいましたから(笑)」
ちなみに23歳で運転免許を取った黒川さんは、現在まで約40年間、ポルシェを乗り継いできている。これも独特の一体感を大切にしているためだという。
「高回転まで回して走るわけじゃないし、レースをするわけでもないし、遠乗りっていってもゴルフに行くぐらいです。日本はスピード制限がありますしね。いまは100%都内です。片道10分程度の通勤ぐらいにしか使っていないんです。でもやっぱり、自分で運転するのがいいですよね。自分が思うとおりにクルマが動いてくれることが好きなんです」
photo「安全は挨拶から」には深い意味がある
そしてもうひとつの一体感、感受性を豊かにして、周囲で何が起こっているかを見きわめ、まわりの環境と一体化していくことも大切だと語った。
「動物だって人間だって、走っているときに木があるとさっと避けますよね。じょうずにまわりの環境と一体化するじゃないですか。だから感受性を敏感に研ぎ澄ませて、環境や人や他のクルマといっしょになって動くことが大切じゃないかなと。向こうからクルマが来たら『オレ右行くからね』とか、交差点に近づいたら『ブレーキ踏むからね』とか」
環境との一体化。それを象徴する言葉として、モビリタでは講習の最初に行われるオリエンテーションで、「安全は挨拶から」というフレーズを使っている。黒川さんはこの言葉も耳に残ったようだ。
「挨拶という言葉を最初聞いたとき、またなんで素朴な言葉を出すんだろうって思ったんです(笑)。でも聞いていくにしたがって、ものすごい深いことを言っているんだと。挨拶には、メッセージを送ることと、受け取ることと、両方入っているんです。たとえばウインカーは『右へ行くよ』という意志を表現していることだし、マイナーな道路からメインの道路へ出るときには、ノーズを少しずつ前に出して『出るぞ、出るぞ』というメッセージを送って、反応を見て、大丈夫らしいと分かったら入っていきますよね。このように自分からメッセージを出し、同時に環境からのメッセージを受け取ることを、ひとことで表しているんです。ふつうなら『クルマはメッセージを送らなければいけませんよ』というような言葉を使いそうなところを、簡単でやさしい言葉で表現しているというわけなんです」
これに限らず、オリエンテーションでの言葉は、ひとつひとつは誰にでも分かる表現に置き換えてあるのに、背後の意味がとても深く、ロジカルで哲学的だったという。
「深く読み取らなかったら、普通の講習なんでしょうけど、僕はそれが、どこから出てきたかまで読んでしまうんです。ふだん読書をしていても、裏まで読んでしまう癖があるからあまりたくさん読めないんですよ。考えちゃうんです。考えるというのは加工し始めることじゃないですか。読んでる端から加工し始めるから進まない。だから読書量は少ないけれど、考える量は人の何十倍も多いんですよ。思索に関してはいっぱいやってきていて、情報を入れなくたって、自分の中から情報が出てくると豪語できるぐらいの量ではあるんです。だからわずかな話でも、いっぱい吸収できましたよ。こういう話って、マナー集になりがちなんですけど、ここモビリタでは人間と環境の関係の重要なロジックをストーリーとして、分かりやすい言葉で話していました。これをちょっとむずかしく書いたら、哲学書になってしまいますよ(笑)」
道具とは何か、クルマとは本質的にどういうものかという、デザイン論で言えばいちばん根底、核心にあるところを、モビリタでは伝えていたという黒川さん。そこに哲学を感じたようだ。
photo環境や人との関係をうまく保つ、それが運転
「環境とか人やクルマにやさしくという話がありましたけど、結局のところは、それぞれとの関係なんです。関係をうまく保つことが運転という行為なんです。他のモノとの関係はできてますよね。たとえばテーブルとか。ヘタな運転というのは、歩くたびに他の人やテーブルにぶつかっているような状態です。ではどうすればぶつからなくなるのかというと、まず自分自身が自分の意志どおりに動けること。次に感受性を豊かにして、『横にテーブルがあるよ』とか、さまざまな情報を感知しながら動くこと。そして『ごめんね、ごめんね』と声掛けながら前に進むように、自分の存在をまわりに伝えながら移動することなんです」
しかし実際の道路では、なかなかそういう関係が築ききれない。だから事故が起こってしまうのだが、黒川さんはこの状況について、クルマに乗ることで起こる心理的な変化を挙げていた。
「クルマの中にいると、鉄とガラスに囲まれて、自分はひとりで生きているような気分になるんです。土日しかドライブしない人って、すぐ分かるじゃないですか。クルマの流れに乗っていないから。自分だけの勝手なスピードとか車線選びとかするでしょ。環境との関係ができていないんです。うまい人は、速いクルマがあれば速く行くし、遅いクルマがあればそれに合わせるし、まるで川の流れに浮かんでいる船のように走るじゃないですか。それができない人が多いわけなんですよ。まわりとの関係、環境と人とクルマとの優しい調和された状態を作るということが大切なんです」
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