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そんな楢崎選手が唯一、モビリタの講習で疑問を抱いた部分があった。ドライビングポジションだ。講習が始まった当初は、腕を伸ばし、シートの背もたれを倒し気味にしてドライブしていた。しかし途中で神野CIから、もう少し背を起こし、腕を曲げてステアリングを握るようにとアドバイスを受けた。最初は違和感があったというが、その後ドライブしていくうちに、その通りだと思うようになったという。
「神野CIがサッカーに例えて教えてくださったことが大きかったです。僕たちゴールキーパーは、腰を落とし、足でしっかり地面を捕まえて、ボールがどっちに来ても跳んでやるっていう『構え』をするわけですが、クルマも同じで、何があってもきちっと回避できるように、左足でフットレストを踏みしめて構え、左右どちらにもステアリングがすっと切れるように腕を曲げて握るようにと言われ、納得しました」
その後の低ミュー路走行でほとんどスピンしなかったのは、並外れた反射神経や運動神経もさることながら、ドライビングポジションを直した効果もある。クルマに横Gが掛かるとドライバーの体がブレる。本来なら修正できるところで暴れてしまう。楢崎選手がそうならなかったのは、体の芯がしっかりしていたためだ。その証拠に低μ路を走っていても、高速フルブレーキングと同じように、頭はブレていなかった。構えが良ければ雨の日でも滑らない。これはサッカーでもドライブでも同じなのである。
さらにサッカーに例えた話題としては、こんなことも指摘してくれた。
「実際の道では同じ環境や条件で走行できるわけではなくて、他のクルマがいたり、道の広さやカーブの程度が違ってきますよね。そういう場面で、講習の成果を応用していく必要があるところが共通していました。サッカーも練習はするんですけど、試合で同じ場面はなかなか出てこない。いかに練習の成果を活かすかが実戦で問われてくるんです」
急ブレーキやスピンについても似たようなことが言える。実際の路上ではめったに遭遇しないし、本来はあってはならない動きだ。でもその動きを体で覚えておけば、仮に同じ状況に陥っても、落ち着いて回避できる可能性が高い。逆に経験がないと、気が動転してしまい、大事故を招いてしまうかもしれない。その点でも今回の体験は、楢崎選手にとってプラスになるはずだ。
「危険回避と言えば、僕たちゴールキーパーは試合では、ディフェンダーなどを動かしてゴールの前でボールを止める指示もしています。そのために積極的に声を出しています。最悪僕がシュートを止めればいいんですけど、そうならないように、しっかり組織的に動かしているんです。これもキーパーの役目ですから」
「備えあれば憂いなし」という言葉が、ドライビングだけでなくゴールキーパーにも通用することを教えられた。
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モビリタのコースは、サッカーグラウンド14個分の広さを持つ。これについては、広くて爽快という第一印象を抱いた楢崎選手だが、メニューをこなしていくうちに、それとは異なる気持ちを抱く部分に遭遇する。その場所とはスラローム走行。パイロンを立ててジグザグに走る練習メニューに似ていたからだった。
「この手の練習は、いつも息が上がってしまうほどハードなので、あまり見たくない光景です。だからスラロームは、思わず入念に走ってしまいました(笑)」
いや、楢崎選手はスラローム以外も入念に、真剣に走っていた。コースの外にいても、熱心さがしっかり伝わってきた。だからだろう、講習後に出た言葉は、オリエンテーションとその後の講習の結び付きをしっかり理解したものだった。
「『100%じゃなくて120%』という言葉はなるほどと思いました。いいドライビングをすることも大事ですけど、まわりがどういう状況かをしっかり把握していくことも大事。その点を目指していくという『120%』の話は、事故を減らし、安全なクルマ社会を作っていくうえで、重要だと思いました」
「追加してほしい講習は?」という質問に対しては、「横転したかったです(笑)」という驚くような答えを返してきたりもした楢崎選手だったが、おおむねモビリタのカリキュラムには満足してもらえたようだ。「俺で良かったね」という余裕の言葉が聞ける日は、そう遠くないかもしれない。
「いままでの意識や運転のままじゃ危なかった、いつ事故を起こしてもおかしくなかったと気づくことができて、貴重な経験になりました。教習所よりはるかに現実的で、すごく勉強になるなと思いました。むしろこれを経験したあとに免許を交付したほうがいいんじゃないかという気がしたぐらいです(笑)。こういう施設だとは思っていなかったし、体験してみないと良さが分からないですね。すべてのドライバーに受けてもらいたいです。まずはグランパスのチームメイトからかな」 |
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「基本的にせっかちな性格」と自分を評していた楢崎選手だったが、モビリタでのドライビングは日本代表やJリーグでのプレー同様、すべてにおいてバランスが取れていた。講習後に話を伺うと、冷静沈着なそのドライビングは、小さい頃に基本の大切さを学んできたことや、長年にわたるゴールキーパー経験で育まれた予測力や認知力によるところが大きいことを知った。
サッカー選手としての体験を、ドライビングという異なる状況に合わせて瞬時に翻訳し、実践することができる。日本を代表するゴールキーパーは、安全運転への適応力もまた一流だった。 |
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