モビ・レポ!モビリタを体験したゲストが語る安全の話 フリーライター 續素美代さん 續素美代さん
續素美代(つづき すみよ)プロフィール
職業:フリーライター、極地旅行家
主な経歴:1998年5月、エベレスト登頂成功。日本人女性3人目。中国側からの登頂は日本人女性初。2008年1月、日本人女性で初の南極点到達。執筆活動のほか、自分の極地体験を伝える講演活動も行っている。
翻訳書:『夢をあきらめないで-カレンと自然と車椅子と』
趣味:読書、散歩
尊敬する人:フリチョフ・ナンセン
續素美代さん
1.「極地旅行家」のリスクと安全 2.モビリタ体験を通して 3.経験の大切さ
photo「結果に付随する評価はどうでもいい」
モビリタの感想を聞く中で、續さんは「限界を体験できる、その経験を積めるのがすごくよかった」という言葉を何度か口にした。それは「登山は趣味」と言い切り、自分を「極地旅行家」と名乗る考え方と一致しているように思える。
「私は、結果に付随する評価はどうでもいいんです。行程の内容が印象深い方がうれしいし、幸せになれるから。そのためには、経験を自分のものにすることが大切だと思ってるんです」
経験は、頭だけでなく身体と心での理解を促し、それが自分の自信になる。ひいては安全を選びとる能力になり、息の長い活動へつながっていく。幸せな満ち足りたおばあちゃんとなってコロッと死ぬことがいまの目標なの、と續さんは笑う。

以前の續さんにとって登山はあくまでも「仕事」であり、山を登ることそのものに喜びは感じていなかったという。エベレスト登頂という大きな目標を達成してからは、「これで登山から離れられる」と区切りがついた気持ちになっていた。もう、山に登るのは止めようかな。そう思いながら登りにいったマッキンリーで不思議な体験をする。
標高5500m、稜線の裏側をひとり歩いていた。道幅は一足分しかない。足を踏み外したら1000m下まで落ちてしまいそうな一本道。折しも天候が悪く、風が頻繁に斜面の雪を巻き上げる。その強い風に乗って雲が流れていくと、時折遥か向こうにマッキンリーの山の塊が見え隠れした。
「マッキンリーの頂上は遥か先にあって見えませんでした。でも、『自分が目指す頂はこの山の塊の向こうに必ずある』と、なぜか強く信じられる感覚があって。これまで感じたこともなかった、『前に進み続けたい』という心の声が聴こえた気がしたんです」
ああ、私はこうやって一生歩き、前に進んで行くのだな。自分の歩むべき道がパッと開けたような感覚が一気に押し寄せ、身体が震えだしたという。續さんはその場でひとり、声を上げて泣いた。生きていてよかった、生まれてきてよかったと。
「仕事」だからいつかは辞める日が来る。そのとき、これまでの自分は何だったのだろうと思いはしないだろうか。心のどこかでそう思っていた登山とその経験が、「生涯の友」に変わった瞬間だった。
photo経験を語り継ぐ
「成功しても失敗しても、経験として自分の中に入ったものを、私はすごく大切にしています。それで自らを知ることができるし、自信にもなる。モビリタの体験でもそう思いました。同じ場所でパイロンを3回も踏んでしまった経験が、自分の車幅感覚をもう一度見直すいいキッカケになったんです」
續さんにとって極地へアタックし続けた経験は自分の人生を考えることにつながり、生涯を通じての目標もできた。しかし、当然のことながら、皆が同じ経験をできるわけではない。續さんはある時ふと、自分が登山を始めるキッカケを作ってくれたドイツ人クライマーの言葉を思い出した。

「賢い人は自分で経験しようと努力する。でも、もっと賢い人は他人の経験から学ぶんだよ」
自分の経験を誰かに伝えなければ。そう考えた續さんは、写真と共に自分が歩んできた道のり、経験、考えなどを子どもたちに話そうと講演活動を行っている。
話を聞く子どもたちの顔は輝き、小学一年生でも最後まで興味深く聞き入ってくれるという。
續さんは講演を通して自分の想いを伝え続ける。命は誰にとってもひとつしかない。悔いのない生き方をするために夢を持つことは大切だが、挑戦と無謀とは異なること。極限の地で命を大切にしながら生きてきたことは續さんにとってかけがえのない経験だった。そこから学んだことを糧として、前へ進み続けられることに喜びを感じていること。
講演活動を始めてよかったことのひとつが、子どもたちの質問によって胸にしまわれていた言葉が表に出ることだ。あるとき、五年生の男の子が「一番あきらめなかったことは何ですか」と尋ねた。續さんは答えた。「自分を信じること」
「それまで私、自分を信じていたかどうかすらわかっていませんでした。でも質問を受けてよく考えると、どんなこともあきらめないことにだけは確信があったと気がついて。あきらめないことは自分を信用していることだな、と自信を持てるようになった。そのことに気づかせてくれたのは子どもたち。感謝しています」
人に伝えようと言葉にして初めて気がつく。多かれ少なかれ、誰しもがそんな体験をしたことがあるのではないだろうか。續さんの場合、数々の経験が「自分を信ずること」につながっていたことを改めて認識した、いいきっかけになったようだ。

世界最高峰だけでなく、南極という別の極限での挑戦も成功させた續さんは、いまどんな目標を持っているのだろうか。
photo 「極地旅行家を70歳までやり続けること! マッキンリーでの経験を経て、極限へ向かう姿勢が一気に変わったので。やりたいという意欲がどんどん湧いてくるし、何より楽しいので!」
恥ずかしいから今は言えない、と明らかにはしなかったが、續さんには70歳になったら行きたい場所があるという。宇宙へ、とりわけ月に行きたいという希望も。それまでは危険なことをしない、膝や腰を痛めない、お酒を飲み過ぎるといった、検査で異常値として現れるようなことをしないと決めている。
「私、前に進んだらもう元には戻れません」そう微笑む續さん。いま、次なる旅行地への準備を着々と進めている最中だ。
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