勝った者がチャンピオン。3人の対決は、最後まで熾烈に!
既報のとおり、エッソ・フォーミュラトヨタシリーズは今年でレース活動を休止し、90年からの18年にも及ぶ歴史に、いったん幕を降ろすこととなった。しかし、あくまでも中止でも終了でもなく、休止ということで、「再び必要とされた時には、復活させたい」とトヨタ関係者は強調していることもあり、この富士スピードウェイが舞台の今季最終戦が、フォーミュラトヨタにとって第1期ファイナルレースということになる。 さて、ここまで6戦に及ぶ激闘が繰り広げられた結果、チャンピオン候補は前回同様、3人となっている。ランキングのトップは国本京佑で、2位はケイ・コッツォリーノ。そして、3位が井口卓人となっており、それぞれ差は7ポイント、10ポイントとなっているが、今年は7戦中6戦の有効ポイント制が採られているため、差などないも同然なのだ。この3人のうち誰かが勝つことを前提とすれば、他のふたりの順位に関係なく、勝った者がチャンピオンに輝くという、これ以上ないお膳立てが整えられている。 勢いという点においては、仙台ハイランドとSUGOにおいて第5戦から連勝中のコッツォリーノに最もありそうだが、国本のレースにおける勝負強さ、歯車が完璧に噛み合った時の井口の速さは、誰もが認めるところであるだけに、条件は3人に一様だと言える。さて、最後に笑うドライバーは?
井口が今季5度目のポールを獲得。コッツォリーノが続くも、国本は……
これまでトヨタモータースポーツフェスティバルと併せて開催されてきた最終戦は、予選と決勝を日曜日のうちに行う、いわゆるワンデイイベントだったものの、今回は予選のみ土曜日のうちに行われることとなった。金曜日に行われた練習走行では、井口が1分44秒021をマークしてトップながら、そのタイムを記録した3セッションの最後は、コッツォリーノがエンジン不調のため出走せず。一方、第2セッションではコッツォリーノがトップ。このふたりの仕上がり具合は上々といった様子ながら、国本は45秒台を切ることができず、何か問題を抱えているようだ。 さて、予選が行われた土曜日だが、グランドスタンドの向こうにそびえ立つ富士山がくっき り見える、これ以上ないコンディションに恵まれることになった。ただし、あたりは初冬の装いを見せ始め、9時からのスタートとあって温度は今年一番と言っていいほど低い。そのため、普段なら有力どころは揃ってピットでしばらく待機するものだが、今回は明らかに考え方が分かれた。コッツォリーノはチームメイトの東徹次郎を引き連れ、開始と同時にコースイン。しばらく待ったのは井口と国本だ。タイヤのウォームアップを重視したコッツォリーノが1分43秒台に乗せた頃、ライバルのふたりは走行を開始する。コッツォリーノが小刻みにタイムを縮めていくのに対し、井口は3周目で早くも43秒台に突入。コッツォリーノが43秒702を記してトップに立ったのも束の間、直後に井口が43秒631をマークして逆転に成功する。 今季5回目のポール獲得となった井口は、「昨日からクルマのセットが決まっていて、今日もすごく気持ちよく走れました! 本当はもっと離せたら良かったんだけど、ポール獲れたからいいです(笑)。ただ、ケイも速いんで油断はできませんけど、どうせなら最後は面白いレースにしたいですね。混戦の中での強さも見せたいんで」と余裕を見せる。 一方、「内圧が今ひとつ合っていなくて、ブレーキングがいけてなかった。そのせいでタイヤをうまくつぶせず、コンマ1秒ぐらいの差がついたというか。それより直線が伸びてない。コーナーだけのトータルなら誰にも負けていないとは思うんですけど、まぁ、このコースは抜けるし、スタートを決めて逃げたいなぁ」と語るのはコッツォリーノ。展開予想というか、狙いとするところが対照的なのが興味深い。 フロントローにライバルが並んだのに対し、国本は1分44秒152がベストで6番手に留まった。「レースを盛り上げようと思って(笑)。実のところ、昨日あんまり走れなかったんで、セットが決まっていないというのがあるんですが、決勝は大丈夫だと思います」と国本。前回のSUGOでもそうだったが、少々予選が悪かろうが、決勝で順位を上げてくるのは国本が最も得意とするところ。ブラフではなく、まだまだ勝負を諦めているようではまったくなかった。 なお、3番手は金井亮忠、4番手は増田定臣、5番手は松下昌揮で、この3人にはランキング4位を巡る戦いもまだ残されている。
井口がエンジンストール、国本はピットイン。その結果……
決勝レースが行われた日曜日も天候に恵まれ、最高のコンディションが保たれていた。ちなみにコースイン開始は8時20分という、予選に増して激早のスケジュールだったものの、ドライバーたちを奮い立たせたのは、その段階でもうスタンドはいっぱいに埋め尽くされていたこと。澄み切った空気に心地よいエキゾーストノートを響かせ、それぞれグリッドに向かった。 泣いても笑っても、これが最後のレース。さまざまな思いが交錯する中、レッドシグナルが消えて……。なんとポールの井口が動けない!「クラッチミートのタイミングは悪くなかったんですが、回転を上げきれず、それでエンジンをストールさせてしまいました」と井口。すぐに再始動なったものの、順位を大きく落とす。もちろんトップはコッツォリーノ、続いて金井、増田の順で1コーナーに飛び込み、さらに国本も4番手に浮上。勢いに乗る国本はダンロップコーナーで増田を抜いて、3番手に躍り出ていた。 オープニングラップ終了時点で、早くも2番手の金井に1秒半のリードを奪ったコッツォリーノは、その後も次第に差を広げていったのに対し、国本が2周目にピットイン!「ギヤの調子がおかしくなったので」と後に語るも、それはすなわちタイトル争いからの脱落をも意味し ていた。しかも、修復されてコースに戻ったものの、ダンロップコーナーでスピンした車両に巻き込まれ、万事休す……。対照的に激しい追い上げを見せていたのが井口だった。1周目には8番手、2周目には6番手、3周目には5番手、さらに5周目には4番手に浮上。ひょっとしたら……のムードを漂わせ、今度は増田に迫っていった。
井口もリタイア! SCランでマージンを失うも強かったコッツォリーノ
もはや井口は、意地とプライドだけで走っていたはずだ。トップをコッツォリーノが走り、しかも差を広げていく状況においてチャンピオン獲得の夢は、限りなく断たれていたから。一方、追われる増田にしても最終戦で表彰台に上るか上らないかで評価も全然違ってくる。同じような思いで走っていたのは間違いない。だが、それぞれの強い思いが裏目に出た。 12周目のコカコーラコーナーで井口が増田のインを刺そうとするも、ここでは逆転ならず、100Rを並んで通過していく。そして、続くヘアピンで2台は接触! リヤサスペンションにダメージを負った井口がそこでストップ、レース続行となったものの、増田もまたフロントウィングを傷めていた。即座にセーフティカーがコースに入るが、気がつくとコッツォリーノと金井の後ろにつけていたのは東。「何かありそうな予感を感じていたんですよ。それで身構えていたら、案の定」という東は、増田だけでなく、前にいた松下をも巧みにかわしていたのだ。 一方、コッツォリーノは6秒近くにまで達していたマージンを失っていた。SCランは1周のみ。千載一遇のチャンスが金井に転がり込んできたが、リスタート後の対応はコッツォリーノの方が一枚上手だった。1コーナーでアウトから抜きにかかった金井を冷静にガード。やや無理なラインからアプローチしていたこともあり、金井は立ち上がりでオーバーラン、それを難なく東がかわしていく。4番手に落ちた金井は最終ラップのダンロップコーナーで増田を抜こうとするも、ここは増田の気合いの方が勝っていた。 最後は再びコッツォリーノが差を広げ、3戦連続のトップチェッカーを受けることに。そして、悲願のタイトルも獲得。併せてチームメイトの東と1-2フィニッシュも達成したことで、メンテナンスガレージ賞の1位も、ル・ボーセモータースポーツにプレゼントすることとなった。3位でゴールの増田はランキングでも国本、井口に続く4位に。4位でゴールの金井がルーキー年間最上位を獲得した。
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