社長メッセージ

100年に一度の大変革の時代を生き抜くために

平素より、トヨタのクルマをご愛顧いただいておりますお客様、株主の皆様、ビジネスパートナーの皆様、地域の皆様のご支援を賜り、誠にありがとうございます。

約100年前、米国に1,500万頭いたとされる馬は、現在では1,500万台の自動車に置き変わりました。いまはその時と同じか、それ以上のパラダイムチェンジを迎えているのではないでしょうか。まさに、自動車業界は「100年に一度の大変革の時代」に入っていると、日々実感しています。

「電動化」「自動化」「コネクティッド」「シェアリング」などの技術革新は急速に進み、新しい競争ルールで、新しいライバルたちと、「勝つか負けるか」ではなく、「生きるか死ぬか」の闘いが始まっています。

Mobility for All

私は、トヨタを「自動車をつくる会社」から、「モビリティカンパニー」にモデルチェンジすることを決断しました。すなわち、世界中の人々の「移動」に関わるあらゆるサービスを提供する会社になるということです。

2年ほど前、あるパラリンピアンの方から言われた言葉が、私のモビリティに対する考え方に大きな影響を与えました。「私は自動車事故で未来を奪われ、車を恨んでいました。でも今日、トヨタがパラリンピックの支援をすると聞いて、これからの私の未来をつくるのも車だと思いました」。そして、国際パラリンピック委員会前会長であり、現在はトヨタの社外取締役を務めているクレイヴァン氏からは、「障がいのある方が、より社会に参加するためには、移動の自由が鍵を握る」と教わりました。

こうした出会いを通じて、私は「モビリティによって、すべての人に移動の自由と楽しさをお届けすること。“Mobility for All”をめざすことこそが、自動車会社がやるべきこと」だとの考えをさらに強めました。

そして、私たちが忘れてはいけないもう一つの軸は、それが愛の付くモビリティであることです。「愛車」と呼ばれるように、クルマには愛が付きます。自動車会社出身であるトヨタのモビリティには、必ず愛が付くことにこだわっていきたいと思います。

「築き上げてきたリアル」と「バーチャル」

2018年の年初、ラスベガスで「e-Palette Concept」、東京で「GRスーパースポーツコンセプト」を発表しました。一方はモビリティサービス、他方はFun to Driveと、全く性格の異なるモデルですが、どちらも最先端の電動化・自動運転技術に加え、コネクティッド技術が搭載された次世代のモビリティです。これらはまだコンセプトモデルですが、6月に日本で発売した新型「クラウン」、「カローラスポーツ」といった市販モデルもコネクティッド技術を搭載しており、コネクティッドカーの「普及」に本気で取り組んでいます。トヨタは、そのための「トヨタコネクティッド」や、自動運転の先端研究を行う「トヨタリサーチインスティテュート」といったバーチャルな世界を開拓していく会社も持っています。

未来のモビリティも、普及モデルも、すべてはお客様に寄り添い、お客様の声を伺うなかから生まれます。しかし、お客様との接点は、一朝一夕につくれるものではありません。お客様に向き合い続けたからこそ、実現できる世界があるとあらためて感じています。

クラウンやカローラなど、長年にわたってお客様に愛されるロングセラーをつくり続けてきたリアル。トヨタ生産方式によって、「より良いものを、より安く、より多くのお客様に」お届けしてきたリアル。私自らが、クルマを愛する仲間とともに、世界の道を走り込み、命をかけて、安全・安心でエモーショナルなクルマをつくり込んできたリアル。これらはすべて、リアルの世界で、現地現物で積み上げてきたものです。

こうしたリアルとバーチャル、両方の世界を持っていることが、これからのトヨタの強みになると思っています。

今後も、リアルの世界で積み重ねてきた自分たちの強みを活かしながら、バーチャルな世界を切り拓いていくことで、未来に向けた新たな強みをつくり上げたいと思っています。

トヨタグループ一体となり、未来に挑戦

私は、トヨタの変革にブレーキをかけるものがあるとすれば、それは過去の自分たちの成功体験だと思っています。

トヨタには、グローバル1,000万台のフルラインナップメーカーとなるなかで、いつの間にかつくられた、仕事の優先順位がありました。例えば、新興国よりも先進国、商用車よりも乗用車といったものです。こうした優先順位は、過去の台数規模や利益によって付けられたものであり、未来の成長を保証するものではありません。私は「どの車種、どの地域についても、最優先に考える人がいて欲しい」と考えています。未来の成長につながる事業や地域の優先順位を上げて取り組むために、「ホーム&アウェイ」の視点で、グループ全体の事業を見直しています。

トヨタ単体ではなくグループの総力を結集し、「ホーム」として強みを持つ会社を見極め、生産性を向上させることで、グループ全体の競争力を強化していきたいと考えています。

本年6月に発表した、「トヨタとデンソー両社の主要な電子部品事業をデンソーに集約」すること、および「アフリカ市場におけるトヨタの営業業務の豊田通商への移管を検討」することは、いずれも「ホーム&アウェイ」を体現する取り組みの一つです。

電子部品も、アフリカ市場も、未来のモビリティ社会にとって極めて重要な分野です。だからこそ、「ホーム」の会社に集約し、グループとしての優先順位を上げて取り組みます。「グループ全体が一体となって、競争力を強化しなければ、トヨタグループに未来はない。内なる闘いをしている暇はない」という危機感を持って取り組んでいきます。

未来のモビリティ社会をつくるために

ただし、すべてをトヨタグループのなかだけでできるとも思っていません。そのことを裾野の広い自動車産業で生き抜いてきた私たちは、深く理解しているつもりです。モビリティカンパニーに生まれ変わるためには、これまで以上にいろいろな人の力を借りることも必要だと思っています。

ある方から、「これからの時代に求められる思考と行動」について教えていただきました。行動の指針は、「前例踏襲」ではなく、「スピードと前例無視」。求められるリーダーシップは、「根回し」ではなく、「この指とまれ」だそうです。

本気で未来のモビリティ社会をつくりたいと思うからこそ、従来の枠組みにとらわれることなく、「この指とまれ」で仲間を募り、それぞれの強みを活かしながら、未来に向けた挑戦を続けていきたいと思います。

100年に一度の大変革の時代を生き抜くため、私は自ら先頭に立って従業員と闘っていく所存でございますので、皆様の変わらぬご理解、ご支援をお願いいたします。

2018年10月
トヨタ自動車株式会社 取締役社長

豊田 章男