2020年11月13日

P2P電力取引システムの共同実証実験で有効性を確認
― 新たな価値提供に向け、さらなるパートナー連携を探る ―

トヨタ自動車株式会社 未来創生センター(以下、トヨタ)は、国立大学法人東京大学(以下、東京大学)、TRENDE株式会社(以下、TRENDE)と共同で、ブロックチェーン*1を活用し電力網につながる住宅や事業所、電動車間での電力取引を自律的に可能とする次世代電力取引システム(P2P*2電力取引)の実証実験を、2019年6月17日から2020年8月31日まで、トヨタの東富士研究所と周辺エリアで実施してまいりました*3。その結果、当取引システムは、「再生可能エネルギー(再エネ)の効率的な利用を実現する自律的な電力需給システム」であり、かつ、「電力料金削減」に有効であり、実証実験に参加した一般家庭(含、電動車)の電気料金を約9%低減できることが確認されました。また、再エネ利用の観点でも、電動車の走行利用電力の43%を再エネとし、CO2排出量を38%削減することができました。

今回の実証実験では主に以下の3点を共同開発・検証してまいりました。

  1. 家庭や事業所、電動車(PHV*4)がアクセス可能な、需給状況で価格が変動する電力取引市場
  2. 市場で取引される電力における発電源の特定と、発電から消費までのトラッキングを可能とするシステム
  3. 人工知能(AI)を活用し、電力消費や太陽光パネルの発電量予測等に応じて電力取引所に電力の買い注文・売り注文を出す、電力取引エージェント

本実証実験で培ったセキュアな分散型電源の制御インフラを活用して、今後は電動車ユーザー、一般家庭ユーザーに向けたP2P電力取引サービスの提供を検討し、電気料金の削減やCO2排出量削減、さらには、災害に強い街づくりへも貢献していきたいと考えております。また、ビジネス実装に向けた課題解決等を推進するなかで、国内のみならず海外におけるパートナー企業・大学との連携での海外展開も検討していきます。

今回の共同実証実験での検証内容は以下の通りです。

概念図

実証概要

本実証実験は、事業所(トヨタの東富士研究所)とその周辺のトヨタの従業員の家庭20軒という規模で実施しました。本実証実験に参加する家庭や事業所がアクセスできる電力取引所を新設するとともに、家庭や事業所、電動車ごとにAIを活用した、電力消費や太陽光パネルの発電量等の予測・エネルギー管理システム(電力取引エージェント)を開発しました。

その電力取引所の中で、電力取引エージェントは、家庭や事業所の電力消費と太陽光パネルの発電量予測に応じて、電力取引所に電力の買い注文・売り注文を出します。各家庭や事業所から電力取引所に集約された買い注文・売り注文を一定のアルゴリズムでマッチングさせ、電力の個人間売買を実施します。分散型電源を保有する需要家(プロシューマー*5)と電力消費者が需給状況に応じた変動価格で電力を売買することの経済性と、プロシューマーが発電した電力を、他の需要家と直接売買する双方向・自律型の電力供給システムの有効性を検証しました。

車両用電力取引エージェントの開発

家庭、事業所、車両の3種類の電力取引エージェントの中で、トヨタは車両用電力取引エージェントの開発を担当しました。車両用電力取引エージェントには、トヨタの有する車両走行に関するビッグデータを最大限活用し、移動予測結果から再エネ率と電力コストを考慮した電力の注文をする機能や、取引結果に応じた充放電を自動で実施する機能、自宅と車が協調して取引できる機能を実装いたしました。

実証期間2019年6月17日から2020年8月31日
実施場所トヨタの東富士研究所と周辺エリア
実証に参加した
モニター
  • 一般家庭 20軒
    • 電力消費者(2タイプ)
      1. PHV無し:6軒
      2. PHV有り:6軒
    • プロシューマー(4タイプ)
      1. 太陽光パネルのみ:2軒
      2. 太陽光パネル+蓄電池:3軒
      3. 太陽光パネル+PHV:2軒
      4. 太陽光パネル+蓄電池+PHV:1軒
  • 事業所(太陽光パネル+PHVチャージャー)
電力価格需給量に応じた変動価格
各役割
  • トヨタ
    • 車両用電力取引エージェントの開発
  • 東京大学
    • 電力取引所の構築
    • 事業所用電力取引エージェントの開発
  • TRENDE
    • 家庭用電力取引エージェントの開発

実証実験の結果

P2P電力取引市場における一般家庭全体の収支(2020年8月1日~8月31日)は、一般の電力会社のみから電気を購入する場合に比較して、8.6%の改善が図られました。うち、電力消費者の収支は6.1%、プロシューマーの収支は18.0%、電動車の収支は25.4%改善できることが確認されました。加えて、電動車においては利用者側には制約がない条件で、電動車の走行利用電力の43%を再エネとし、CO2排出量を38%削減することができました。

電力料金収支改善率

実証実験への参加者全体(20軒+9台):8.6%PHV単体
(9台)
電力消費者(12軒+6台):6.1%プロシューマ(8軒+3台):18.0%
PHVなし
(6軒)
PHVあり
(6軒)
太陽光パネル
(2軒)
太陽光パネル
+蓄電池
(3軒)
太陽光パネル
+PHV
(2軒)
太陽光パネル
+蓄電池+PHV
(1軒)
2.1%9.2%32.3%32.0%8.4%107.6%*625.4%
*1:
分散型台帳技術とも呼ばれ、台帳情報をネットワーク参加者全員で共有することで改ざん耐性を持つデータベースを安価に構築する技術
*2:
Peer to Peerの略。特定のサーバーやクライアントに依存せず、ノードと呼ばれる各端末が対等に直接通信を行って取引等を実行する仕組み
*3:
過去リリースはこちら https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/28227543.html
*4:
プラグインハイブリッド車。今回の実証実験ではトヨタのプリウスPHVを使用
*5:
電力消費者(コンシューマー)が発電設備を保有し自らが電力を生産(プロデューサー)する場合に当該消費者をプロデューサーとコンシューマーを合わせて呼称する造語
*6:
100%を超えたのは、電力販売収入>電力購入費用となり、純収入が発生したため