2020年12月11日

道路の壁を使ってソーラー発電!?
カイゼンで工事期間を短く

トヨタの未来創生センターでは様々な研究を行っています。その中にはソーラーパネルを用いた再生可能エネルギーを活用するシステムの研究があります。このシステムのメリットは高速道路の遮音壁などにソーラーパネルの機能を追加することで、都市部などの発電できる面積が少ない場所でもエネルギーの地産地消ができるため、災害時などの外部からの電力供給が断たれた時でも電力が必要な装置へ供給できることです。
このシステムを実証実験した際のパネル設置工事における「カイゼン」の様子を取材しました。

  • 完成したソーラーパネルを確認するプロジェクトメンバー

再生可能エネルギーを活用するシステムとは?

福永:そもそもなぜトヨタは再生可能エネルギーを活用するシステム(以下、再エネシステム)を研究しているのでしょうか?

伊東:トヨタはモビリティを通じて持続可能な社会の実現を目指しています。その一環として、都市部の新たなソーラーパネル設置場所として遮音壁などを選定し、環境負荷低減につながる再エネシステムの研究を行っています。

プロジェクトリーダー 伊東 裕司

これまで自動車の生産設備やパートナーロボットなどのメカ設計を担当
現在はモビリティに関わるインフラシステムの研究を担当

聞き手 福永 大輝

これまではトヨタの医療用機器「ウェルウォーク」のメカ設計を担当
現在はより良いモビリティ社会の実現に向けた研究を担当

福永:遮音壁などを利用した再エネシステムとは具体的にどのようなシステムでしょうか?

伊東:ソーラーパネルを高速道路の遮音壁などの狭小空間に設置し、再生可能エネルギーを「作り、貯めて、利用する」一連のサイクルを実施するシステム(図1)です。このシステムは外部からの電力供給が断たれた時でも電力が必要な装置へ供給できるメリットがあります。ソーラーパネルは太陽光入射角に対して垂直に置くと発電効率は高くなるのですが、遮音壁の両面にパネルを貼ることで一般的な平地に設置する場合とそん色ない発電効率であることを確認しています。
2018年2月に首都高速道路株式会社から道路上での本システムの共同研究公募があり、持続可能な社会に貢献できる機会だと考えトヨタが手を上げ、研究を開始しました*1

  • 図1.道路上での再エネシステム全体図

福永:今回の実証ではソーラーパネル取付工事で、工事担当の株式会社大林組(以下、大林組)と共同開発したと聞いております。どのような経緯で始めたのでしょうか?

伊東:工事担当の大林組から「工事で道路占有するとその期間中お客様にご不便をかけてしまうため、さらに工事時間が短縮できる方法を模索している。」と以前より聞いていました。早速、従来の工事方法を実物大模型を作って、見せていただいたのですが、作業者が高所で大きなソーラーパネルの位置を何度も調整していて、大変苦労されていました。そこで、楽に速く設置する方法を考え、作業者への負担や道路利用者への規制によるご迷惑を軽減できないかと、大林組と共同でこの課題に取り組み始めました。

道路上の工事でもクルマのモノづくり力を活用

福永:共同で課題解決に挑戦したのですね。どのようにカイゼンを進めたのでしょうか?

伊東:トヨタが生産ラインで培ったカイゼンをソーラーパネル取付工事に応用しました。今回の工事では140枚(280m分)のパネル取付を行うため、クルマの生産ラインで部品を安全で効率的に組み付けるやり方が活かせると考えました。
まず、従来のパネル取付工事をビデオに撮って何度も観察し、どこにムダがあるか徹底的に分析しました。その結果、パネルをトラックの荷台から取付位置に移動する工程で、遠くにいるクレーン操作者と取付位置にいる作業者が息を合わせてミリ単位で位置を調整しているため、やり直しが発生している事がわかりました。
そこで、図2のようにクレーンでのパネル取付をやめて、同じ作業者がパネルの移動と取付作業を一台のトラック荷台上で完結させる装置*2を大林組に提案しました。大林組からは高速道路に関する配慮の提案などを頂き、プロトタイプを製作しました。

  • 図2.カイゼン前後のパネル工事
  • カイゼンした装置の紹介動画

福永:両社の強みを出し合って、装置を製作されたのですね。装置の使い勝手はいかがでしたか?

伊東:残念ながら最初はうまく動かすことができませんでした。そのため、装置全体の剛性やレールの滑車の滑り具合などの問題のあった箇所を細かく見直して、スピーディーに対処しました。さらに、約60項目の追加のカイゼンを行い装置を完成させました。
最終的には、パネル一枚当たりの取付時間が30分から4分半に短縮することができました。また、装置を導入したことで、パネル取付ごとに複数台の重機を移動させる必要がなくなり、6人かかっていた作業が3人で対応でき、何度もクレーンで調整する手間もなくなったので作業者負荷を低減する事が無事できました。

  • 現場所長の兼丸隆裕様(大林組)からのコメント

我々の挑戦は続く

福永:ソーラーパネルを遮音壁で活用するプロジェクトの裏話を聞かせていただき勉強になりました。
最後に、今後の展望などについて教えてください。

伊東:現在再エネシステムは、首都高で実証実験中で、来年10月末にはシステム全体の有用性の是非が分かる予定です。
今後も、我々の子孫が幸せに過ごせる社会を作るためにトヨタは今までにチャレンジしたことのない課題に飛び込んでいき、様々な人々や企業と協力して、課題を解決していきます。

福永:今日は勉強になりました。僕もカイゼン作業をいろんな面で応用していきたいと思います。ありがとうございました。

プロジェクトを共に進めた仲間たち
*1:
首都高速道路株式会社 関連リリース
https://www.shutoko.co.jp/company/press/2020/data/12/11_research
*2:
株式会社大林組 関連リリース
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20201211_1.html