2020年12月22日

第1回 Genki空間®研究の取り組み(前編)
~自然を「切り取った」空間を実験室に再現~

トヨタ自動車(以下、トヨタ)の使命は、世界中の人たちが幸せになるモノやサービスを提供することだと考えています。その取り組みの一つとして、未来創生センターでは、将来の心身ともに良好になる空間の提供を目指しています。現在、トヨタ本社にある研究室の中に自然を「切り取った」ような独自の空間を作り、植物の色や形、空気に含まれる微生物や化学物質などが人に与える影響をさまざまな計測技術を使って検証しています。

人々がまだ気づいていない、でも実はとても大切な自然のチカラを科学的に理解し、実際の居住空間に再現できたら、もっと世界中の人たちが心身ともに良好になるのでは……、
そんな研究を行っているメンバー(大音、村松、徳弘)に話を伺いました。

―なぜ自動車会社が空間の研究をするのでしょうか?

大音:トヨタは「自動車をつくる会社」から、世界中の人々の「移動」に関わるあらゆるサービスを提供する「モビリティカンパニー」への変革を進めています。ちょっと飛躍しているかもしれませんが、我々は人が移動する「空間」そのものも「モビリティ」の一部と考え「空間」に新しい価値を提供したいと願い、空間研究に取り組んでいます。

―そもそも「Genki空間®」ってなんでしょうか?

大音:自然が人へ与える効果の研究として、リラックス効果、疲労軽減、不眠解消などが知られています。そこで、もしオフィスやリビングといった空間が自然の森と同じような効果を持った空間であれば、そこに滞在するだけで心が明るくなる、活き活き元気な状態になるのではと考え、このような人が心身ともに良好な状態になる可能性のある空間を「Genki空間®と名付けました。

徳弘:これまでも実際の自然の中に出向き、自然が人へ与える効果を測る、いわゆる「フィールド研究」はありました。しかしフィールド研究は自然を相手にするため、人の心身状態に影響があると言われている温度、湿度、風、光、さらには自然に存在する植物や微生物などの要素を制御するのは不可能でした。また実験参加者たちが自然環境に赴く負荷も心身状態に影響を与えるため、フィールド研究には限界がありました。

大音:未来創生センターには温度、湿度、風、光が制御できる太陽光型環境制御温室(以下、温室。幅3m×奥行き5m×高さ3 m)があります。そこでこの温室内に自然をそのまま切り取ったような空間を再現し、その空間内で人の心身の研究に取り組んでいます。

―どのようなGenki空間®を作製したのですか?

村松:空間作製では共同研究先のパソナ・パナソニック ビジネスサービス株式会社(PBS)*1にご協力いただきました。温室は3室あり、3つの温室内にそれぞれ異なる効果が期待されるGenki空間®を作りました。具体的には、1.疲労感軽減が期待される空間、2.集中力アップが期待される空間、3.活力アップが期待される空間です*2

徳弘:温室内のGenki空間®は「Genki-tron™」と呼び、実験参加者1名が数分から数時間、自然空間に滞在した時の効果を検証しています。

1.疲労感軽減が期待される空間
  • 2.集中力アップが期待される空間
  • 3.活力アップが期待される空間

短期滞在時の効果を検証するためのGenki-tron™(1.疲労感軽減が期待される空間、2.集中力アップが期待される空間、3.活力アップが期待される空間)
Genki-tron™紹介動画はこちらです

村松:またもう一つ、数日から数週間、自然空間に滞在した時の効果を検証するために、幅約10 m×奥行き約12 m×高さ約3 mの実験空間を活用し、植物と共生しながら長期間滞在できるオフィスタイプのGenki空間®「Genki-office」も作製しました。

長期滞在時の効果を検証するためのGenki-office

Genki-office紹介動画はこちらです

―Genki空間®研究で分かったことを教えてください

徳弘:Genki空間®に導入した植物の葉の形状とそれに対する印象について相関がないかを調べました。Genki空間®作製において、PBSの経験を参考にさせていただきながら、疲労軽減、集中力アップ、活力アップが期待される植物を一緒に選定しました。そして、選定した植物の葉の形状を1枚ずつ調べ、葉の長さ、幅、丸さなどから、人はその植物に対しどう感じるのかを調べました。

その結果、「癒されると感じる」植物群は「小さい葉」を、「集中力がアップする」と感じる植物群は「細長い葉」を持つ傾向があることなどが分かりました。また興味深いことに、植物全体の印象と葉1枚を見たときの印象がほぼ一致していることも分かりました*3。人は植物の近くまで寄って葉の形を見ることで、それぞれの植物を印象付けているのかもしれませんね。この「葉の形状マップ」は特許出願中です*4

―Genki空間®の将来の展望はどんなことを考えていますか?

大音:これらの研究で分かったことを空間設計論に落としていきたいですね。都市化による人と自然との関係の希薄化は、心身に影響を及ぼしている可能性があると言われています。Genki空間®研究を進める中で、自然の「空気質」に解決のヒントがありそうなことが分かってきました。未来創生センターでは植物学、微生物学、生化学、数理科学、情報科学など多様な分野の研究者たちが協力しあい「空気質」の解明に取り組んでいますので、後編ではこれらの研究成果についてお話ししたいと思います。また、心理学、生理学、脳科学の研究者たちともGenki空間®に滞在した人の状態変化について研究を進めています。これらの研究成果についても、いつかご紹介できる機会あればうれしいですね。(後編に続く……)

葉の形状マップ

共同研究先 担当者様からのメッセージ

パソナ・パナソニック ビジネスサービス株式会社
COMORE BIZ推進部 事業企画チーム マネージャー 鈴木章太郎様コメント
約2年半前、トヨタ自動車のみなさんから共同研究の相談を受けた時、目指すべきゴールは同じだ!と直感的に思いました。私たちは、働く場や生活する場を自然環境(PBSではライトプレース*5と呼んでいます)に近づけるバイオフィリックデザイン*6を通じて、この研究成果を、一人でも多くの人々が心身ともに健康で心豊かに生活できる社会の実現につなげていければと思っています。

自然の中での空気サンプル採取の様子
  • 皮膚に共生する微生物のサンプル採取の様子
  • Genki-tron™での脳活動計測の様子
インタビュー回答者3人の並んだ写真

今回のインタビュー回答者:
右から大音 徳(グループマネージャー、Genki空間®研究の統括)
村松 正善(プロフェッショナルパートナー、同研究のデザイン・設計の担当)
徳弘 健郎(プロジェクトマネージャー、同研究の植物分類・視覚研究担当)

参考文献

*1:
パソナ・パナソニック ビジネスサービス「“植物と共生する空間が人間にもたらす効果”についてのトヨタ自動車株式会社との共同研究」
*2:
日本建築学会2020年度大会 発表番号40037「Well-being を目指したバイオフィリア空間の研究(その1)研究全体の概要とバイオフィリア空間実験室の作製」
*3:
日本建築学会2020年度大会 発表番号40038「Well-being を目指したバイオフィリア空間の研究(その2)植物の評価 ~植物の形状測定と官能評価~」
*4:
特願2020-123168「植物分類システムおよび植物選定システム」
*5*6:
コモレビズhttps://www.pasona-pbs.co.jp/comorebiz/

本件に関するお問い合わせ先

未来創生センター

メールアドレス:
xr-probot@mail.toyota.co.jp