2021年4月28日

なぜトヨタ自動車が脳研究をしているのか
~個性を尊重するWell-beingを目指して~

引用元:BTCC HP
  • 産業と技術革新の基盤をつくろう

トヨタ自動車 未来創生センター(以下、トヨタ)は、脳科学と技術の統合によって生み出される可能性に挑戦し、それを通して未来社会のためのイノベーションを創出することを目指しています。その一環として、2007年理化学研究所脳神経科学研究センター(埼玉県和光市。以下、理研CBS)とともに包括連携組織である「理研CBS-トヨタ連携センター」(RIKEN CBS-TOYOTA Collaboration Center。以下、BTCC)を立ち上げ、以来、共同で脳研究を進めています。

本日はBTCCで脳リズム情報処理連携ユニットを率いる北城先生の研究室で、北城先生とトヨタのメンバー(山田、幸田、山口)に最新の脳研究について話を伺いました。研究室でまず目に入ってきたのは、並んでユラユラ揺れている10個のメトロノーム。これは一体何でしょう?

― このメトロノームと脳研究はどんな関係があるのですか?

北城先生:

この10個のメトロノームは、振れ始めるタイミングをわざとずらしているのですが、同じ板の上で左右にユラユラしている中で、だんだん同じタイミングで振れる……、つまり同期が起こります。実は、これと同じことが脳の中で起こっているんです。脳細胞ひとつひとつがメトロノームのように振動的な電気信号を発生させており、それぞれの振動のタイミングが揃ったり、暫くするとまたバラバラになるといった現象が見られます。この研究室では、脳波を計測し、その同期パターンに着目した研究を進めています。

― どうして脳波の同期パターンに着目しているのでしょうか?

北城先生:

脳波の同期パターンによって、ヒトの脳情報処理の個性を見える化できるのではないか、と考えているからです。脳波の同期は、脳内の分散した領域間をまたぐ情報処理や情報伝達に重要な役割を果たしていると考えられている現象で、その同期パターンはヒトによって異なることが最近の研究で分かってきました。

  • 脳波計測の様子(左)、脳波計測のデータ(右)

― どのような個性が見える化できるようになったのでしょうか?

北城先生:

例えば、注意の切り替えが苦手で、集中しすぎるという性格の傾向です。下の絵は、この傾向が強い人(上)と弱い人(下)の準安定状態(弱く安定して現れる同期パターン)を示しています。この傾向が強い人は、準安定状態の数が少ないことが分かります。これまでは行動や心理アンケートからでしか分からなかった人の特徴を、脳波計測によって予測できるのではないかと考えています。※1

  • (上)注意の切り替えが苦手という性格の傾向が強い人、(下)同性格の傾向が弱い人

― なぜトヨタはBTCCの取り組みとして個性の見える化を進めているのでしょうか?

山口:

トヨタは移動に関するあらゆるサービスを提供するモビリティカンパニーとして、幸せの量産をミッションにしています。BTCCの取り組みとして、ヒトをもっとWell-beingになっていただくことを目指し、「心、体、社会性」という3つのアプローチで研究を進めています。私たちは、こうしたBTCCの取り組みがトヨタのミッション実現に必要な基礎研究になると考えています。どのような状態がWell-beingなのかは、ひとりひとり異なります。その人にとってのWell-beingを実現するために、ヒトの個性を理解し、見える化する技術が必要であると考えています。

山田:

北城先生には、「個性を考慮した心のWell-beingを脳データによって見える化」というテーマで研究を進めていただいており、個性の見える化について学術的にも価値のある成果を上げていただいています※2

北城先生:

BTCCの取り組みは2007年から始まり、現在は第4期(2019年から2021年)の活動中です。この持続的な連携を通して、理研の研究者とトヨタのメンバーがお互いの言葉を理解し、研究方針から研究内容の細部まで密な議論が出来ているため、面白い研究テーマが次々に生まれています。

― 心のWell-being研究は、今後どのように発展していくのでしょうか

幸田:

これまで心のWell-beingの見える化に向けて、ヒトの個性を脳データから抽出する研究を進めていただきました。今後も北城先生には、脳のある部分におけるニューロンを興奮させる脳内物質と抑制させる脳内物質のバランスを測定することで、心の状態をさらに深く見える化する研究を企画していただいています。

山口:

「ヒトをもっとWell-beingに」を実現するためには、見える化だけではなく、働きかけの研究も重要になります。運動がヒトの心に与える影響や、ヒトとヒトの繋がりがお互いの心にもたらす変化などの研究も今後進めていきたいと考えています。

― 楽しみですね、本日は大変面白い話をありがとうございます。BTCC研究状況を知るにはどちらにアクセスすればよいでしょうか。

山口:

最新情報はBTCCのホームページで入手できます。どうぞこちらをご覧ください。

― ありがとうございました

参考情報

※1:
The metastable human brain associated with autistic-like traits, Takumi Sase, Keiichi Kitajo, bioRxiv 2019, doi: https://doi.org/10.1101/855502
※2:
https://btcc.riken.jp/

本件に関するお問い合わせ先

未来創生センター

メールアドレス:
xr-probot@mail.toyota.co.jp