大西健史の豊田工業大学での講演風景大西健史の豊田工業大学での講演風景

2021年7月30日

未来の研究者育成活動
未来につながる研究は、未来の研究者の育成から

2016年米国大学院留学中に母校の後輩へ講義する筆者
  • SDGsアイコン 目標4:質の高い教育をみんなに

こんにちは!未来創生センターでは未来の研究者育成活動として、センターの研究者がそれぞれの特異な経歴や経験を活かし、大学や高校などで研究や来歴などの講演をしています。今回はその活動の一環で私、大西が米国での7年間の留学と研究経験について、岐阜大学の学生に向けてリモートで講演しましたので、その講演内容について紹介します。

留学からの来歴

私は未来創生センターで主にAI(人工知能)系の研究をしている大西といいます。トヨタ自動車入社前は、米国シカゴで7年ほどコンピューター・サイエンスのPh.D.プログラムに在籍していて、2020年に卒業、帰国、同年9月に入社しました。入社のきっかけは、一時帰国で企業見学した際に知り会った今の上司から「将来のスマートシティに必要な数理研究・データサイエンス研究のキャリア採用をしているから、応募してみないか?」と誘われた事でした。当時から、外乱の大きい実環境にも対応できるような冗長なAI研究に興味があり、「トヨタの未来創生センターでなら、どこよりも実環境に近い研究」ができると思い、迷わず応募しました。無事合格できた私は現在、未来創生センターの基盤研究グループでAI、特に機械学習研究チームを率いる立場で研究しています。

Toyota Technological Institute at Chicago (TTIC) のホワイトボード
米国大学院風景
Japanese Researchers Crossing in Chicago (JRCC) 集合写真
シカゴでの日本人研究者会(JRCC)にて。岐阜大学先生は下段左4人目。筆者は中段左端。
同会 HPより引用

岐阜大学での講演について

岐阜大学でのリモート講演のきっかけは、私が留学していた大学院に岐阜大学から研究に来られていた先生から、米国での留学と研究経験について学生たちに話をして欲しいとの依頼があったからでした。

講演では学生に将来の自分の研究環境について参考にしてもらえるよう、特に留学中にインターンの形で体験した様々な研究環境について話をさせていただきました。インターンというと日本では、大学3年や院1年の夏休みの期間、数日~一週間程度のものが普通ですが、米国の大学院、特にコンピューター・サイエンス学科では、夏学期の3ヶ月間、場合によってはそれ以上の期間、大学や企業に赴いて研究を行い、職場の雰囲気を知ったり、論文を残すことで正式に採用されるための実績を作ったりすることが一般的です。私も夏のインターンで、いくつかの研究機関を周り、様々な研究環境に触れることができました。

例えば、私の留学していた大学院は教員数に対して、学生数が少なく、ほとんどマンツーマンで指導をしていただくことができ、私の経験してきた環境の中で最も研究に専念できる場所でした。一方で所属する学生数が少ないため、人手のかかる大がかりな実験や研究は難しいという側面もありました。この点、カリフォルニアの某IT企業にインターンに訪れた際は、同じオフィスに同じコンピューター・サイエンスを専門とする学生や研究者が数十人おり、互いの研究に協力し合って、それぞれ研究に取り組むことができました。また、東海岸の大学院での研究では、AI技術を医療に役立てるということで、医師の方々に話を伺うなど、必ずしもコンピューター・サイエンス専攻でない方と関わった研究をすることができました。

このように研究環境はそれぞれの研究機関によって千差万別で、更にどのような環境に魅力を感じるかは、個々の研究者で更に意見が別れることかと思います。私の場合、特に魅力を感じたのは某国立材料研究所での共同研究でした。その研究ではAIを材料開発に役立てるということで、複数の研究機関から参加しているそれぞれの専門家がそれぞれ専門知識を持ち寄って、ひとつの研究を完成させることに非常に大きな魅力を感じました。

Toyota Technological Institute at Chicago (TTIC)でのティータイムディスカッション
米国大学院ではコーヒーブレイクでも研究についての意見を交換。豊田工業大学 広報誌ADVANCEより引用
  • やりたい研究とは何なのか?
    講演スライド 1
  • トヨタ自動車未来創生センターの魅力
    講演スライド 2

未来創生センターは様々な専門家と研究ができるという点で非常に魅力的な研究環境です。未来創生センターは、IT企業ではないので計算環境などは発展途上で、彼らに追いつくべく改良を試みている真最中です。しかし、IT企業では出会えないような多くの生物、化学などの他分野/異業種の仲間と共にチームで大きな研究テーマに取り組むことができ、それがセンターで研究する一番の魅力だと思います。

特にセンターの仲間は、社内のあらゆる分野の研究者だけでなく、トヨタ自動車の枠を超え、トヨタグループ各社、関係会社までにおよびます。例えば、コンピューター・サイエンスの最適化アルゴリズムを実際の遺伝子解析に適応したい生物学者と共同で研究に取り組んだり、実験室に収まらない実証実験をグループ企業の方々と取り組んだりしています。このような仲間の広さと取り組みに対するパワーの大きさこそ、未来創生センター一番の強みであり研究者にとっての魅力だと思います。

未来の研究者へ

最後は少し宣伝になってしまいましたが、このリモート講演について岐阜大学の皆さんには大変ポジティブな反応を頂き、講演後アンケートでは半数以上の学生が「この講師の講演にまた参加したい」と回答してくれました。また、感想として「米国と日本の研究機関の違いを知ることができた」「米国でのインターンシップなど貴重な話が聞けて良かった」「留学や研究機関での話が、今後の参考になった」などの感想を頂き、学生が将来どのような研究者になるのかを考えるきっかけとなったようで、私としても嬉しかったです。

最後に、トヨタの教育・人材育成の理念である「モノづくりは人づくり」という考え方にもあるように、「よい研究にはよい研究者の存在」が欠かせません。これからも、未来創生センターでは未来の研究者育成に積極的に取り組んでいきたいと思います。

著者:大西健史

著者:大西健史

2013年 豊田工業大学で学士を取得後渡米し2020年Toyota Technological Institute at Chicagoで日本人として初めてPh.D.を取得。同年帰国し現職。入社して一番驚いたことは、食堂の米の美味しさ。(東富士研究所周辺は富士の湧き水のおかげか、ご飯が美味しい)