走っているクルマに電力を供給する「走行中ワイヤレス充電システム」を開発中走っているクルマに電力を供給する「走行中ワイヤレス充電システム」を開発中

2021年12月24日

走っているクルマに電力を供給する「走行中ワイヤレス充電システム」を開発中
―電気で走るクルマの走行に もっと自由を―

イラストはイメージで、市販車両ではありません

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トヨタ自動車 未来創生センター(以下、トヨタ)では、BEVやプラグインハイブリッド車(PHEV)をもっと気軽に使っていただくために、クルマ用の充電器を開発しています。充電と聞いて皆様が想像しやすいのは、クルマを駐車場に停めて専用の充電ケーブルを挿す「接触式」ではないでしょうか?実は、ほかにも充電された電池に取り換える「バッテリースワップ式」や、充電ケーブルを挿さずに充電が出来る「ワイヤレス式」など複数の種類があります。トヨタではさらに、走っているクルマにワイヤレスで充電する「走行中ワイヤレス充電式」の研究に取り組んでいます。

BEVを無限走行車へ

走行中ワイヤレス充電式は高速道路や街中の交差点などの道路下に機器を埋め込み、その道路上を走行・停車するクルマへ向けて充電します。ユーザーは充電ケーブルを挿すといった手間と、電池が無くなり走れなくなってしまう不安から解放されます。また一般的に電池は高価で高重量であるため、航続距離が長く車両が大きいトラックやバスなどにはBEVに向かないと言われています。このワイヤレス充電システムが実現すると、走行に大きなエネルギーを使う車両にとっては、大容量の電池を搭載しなくてもよいため、より多くの人・物を移動させることができます。

  • 走行中ワイヤレス充電イメージと機能配置走行中ワイヤレス充電イメージと機能配置
    走行中ワイヤレス充電イメージと機能配置

課題だらけ

利便性の高い走行中ワイヤレス充電式ですが、実はまだ実現していません。その理由は、
高強度化:トラックなどの重機に踏まれても壊れない程度の強度が必要
低損失化:充電機本体がワイヤレス充電時に消費する電力を減らさなければならない
低電波化:ワイヤレス充電時に充電機本体が発する電波で周囲の電気機器を誤動作させない
といった技術の課題が残っているためです。
本日はワイヤレス充電時にクルマの中のナビやラジオに影響を与えない、更に充電器が埋められている道路の周りの機器(歩行者が利用しているスマートフォンやペースメーカーなど)に影響を与えないための③低電波化について、開発中の内容をご紹介いたします

  • 充電動作によって周囲に電波が漏れ出ているイメージ充電動作によって周囲に電波が漏れ出ているイメージ
    充電動作によって周囲に電波が漏れ出ているイメージ

懐かしの「右ねじの法則」

そもそもワイヤレス充電ってどういう原理なのでしょう?皆様にとって身近なワイヤレス充電式の機器は、置くだけで充電可能なスマートフォンの充電器かと思いますが、実はスマートフォン用もクルマ用も同じ原理で、右ねじの法則を用いて充電を行います。

  • 右ねじの法則右ねじの法則
    右ねじの法則

「いいね!」のハンドサインでおなじみのこの法則ですが、親指が「①電線」、親指の向きが「電流が流れる方向」、そのほかの指が「電流が流れたときに発生する磁束と磁束の向き」を表しています。
イメージとしては、電車が通り過ぎるときに発生する風で、電気の場合は電線を右回りで覆うように磁束(電気の風)が発生するイメージです。この法則は逆には、近くにある「②別の電線」に対して先ほど発生した「磁束」が当たると磁束の量と向きに応じた「電流」が流れるとも言えます。

  • 電流と磁束電流と磁束
    電流⇒磁束磁束⇒電流

①電線が道路下の充電器(地中ユニット)に装着され、②別の電線を装着したスマートフォンやクルマが、磁束・電流を受け取りバッテリーに充電をするのがワイヤレス充電です。
ただし、この電気の風である磁束が、近くにある別のスマートフォンなどに悪影響を与える原因でもありますので、いかに磁束を周囲に広がらないようにするかが、走行中ワイヤレス充電方式の肝のひとつとなります。

「コイル」は、磁束を発生させ、受け取るために効果的な形にした電線ですが、円を描くように電線を巻いて電流を流すことで、扇風機のように中央から強い磁束(電気の風)を送ることが出来ます。
エネルギーの送り手と受け手の関係としてコイル同士の距離が短く、同じサイズで、ズレなく置かれると磁束が周囲に漏れにくくなります。

  • コイルコイル
    コイルの例
  • 磁束発生イメージと磁束が漏れにくい条件磁束発生イメージと磁束が漏れにくい条件
    磁束発生イメージと磁束が漏れにくい条件(左)
  • 磁束が漏れやすい条件磁束が漏れやすい条件
    磁束が漏れやすい条件(右)

スマートフォンのワイヤレス充電では、1㎝程度離れた状態で、同形状のコイルで充電しています。また、コイルどうしの位置がずれないように、マグネットで固定した状態で充電が行われています。クルマの場合、段差を乗り越えるために地面と車体底面には距離を持たせなくてはならず(日本の車検では9cm以上)、車重を大きく上げないようにクルマに載せる側のコイルの方が小さくしなければなりません。また、地中ユニットも安くはないため電波の漏れやすい地中ユニット端部(進行方向※下図参照)の位置まで活用(充電)させたいという背景もあり、スマートフォンに比べて非常に磁束が漏れやすい条件になります。

  • 走行中の車両進行方向の位置ずれ走行中の車両進行方向の位置ずれ
    走行中の車両進行方向の位置ずれ

Adjacent Cancel Coil

今回トヨタが開発中の「Adjacent Cancel Coil(以下、ACC)」は、隣接する打消しコイルといった意味ですが、位置ずれが起きたとしてもクルマ側のコイルと道路側のコイルとがそれぞれでコイルが漏らしてしまう磁束を自分自身で打ち消してしまおう!というコンセプトのコイルです。
一般に、2本の電線にそれぞれ電流を流して発生する磁束は、2本の距離が近いと磁束の向きが「揃い協力」し合いますが、距離が遠いと磁束の向きが「対向し力を打消し」します。

  • 近いと協力するが、遠いと打消しあう磁束近いと協力するが、遠いと打消しあう磁束
    近いと協力するが、遠いと打消しあう磁束

ACCは2つのコイルを隣同士に離して配置して、先ほどの磁束の打消しの作用を利用します。中心2つの電線から発生する磁束は、それぞれもう一方のコイルの外側のコイルが発生させる磁束を打消しするように動きます。ACCを地中ユニット、車両ユニットそれぞれに適用することによって、両者ともが自分自身でコイルの外側に漏れ出る磁束を打消しすることで、低電波化に貢献します。

  • 開発コイルと電流の向き開発コイルと電流の向き
    開発コイルと電流の向き
  • 打消しループ打消しループ
    打消しループ
  • 車両・地中ユニット両者の打消し作用によって漏れ磁束を激減車両・地中ユニット両者の打消し作用によって漏れ磁束を激減
    車両・地中ユニット両者の打消し作用によって漏れ磁束を激減

基本波の規格で世界最高水準を達成

ワイヤレス充電のように磁束(電波)を扱う機器では、一定以上の強さの磁束を出してはいけないという国際規格(CISPR11 ClassB)があります。規格では周波数と呼ばれる電気特性の数値毎に、磁束の強さの上限値が定められています。周波数の中で、コイルを動作させるために狙って設定した数値範囲を「基本波」、狙わずに磁束が出てしまう数値範囲を「高調波」と呼びます。基本波で出る磁束の強さはコイルの方式によって決まり、高調波で出る磁束の強さはコイルを動かすための機器(電気回路)によって決まります。走行中ワイヤレス充電目的で世界を探しても規格を達成した報告はない中で、私たちの開発コイルは、基本波の規格達成(コイル間ギャップ250mm、充電電力25kW)を世界で初めて実現しました。

  • 走行給電実機評価走行給電実機評価
  • 走行給電実機評価走行給電実機評価
  • トヨタ自動車 金﨑、橋本、および、長岡技術科学大学メンバートヨタ自動車 金﨑、橋本、および、長岡技術科学大学メンバー
実機評価の一幕
(右写真:左が著者(金﨑)、中央は共同研究先・長岡技術科学大学メンバー、右は制御電子システム開発部 橋本)
  • 評価結果:CISPR11 ClassBの基本波を達成評価結果:CISPR11 ClassBの基本波を達成
    評価結果:CISPR11 ClassBの基本波を達成

私たちの戦いはまだ終わっていません

開発コイルによって基本波は達成しましたが、高調波の規格はいまだ達成出来ていません。現在は高調波の原因である電気回路について大学と協力して検討を進めています。こちらについても、世界初の試みとなっており実現に苦しんではいますが、電波規格の全域達成に向けてやり遂げます!
他にも高強度化、低損失化そして低コスト化等種々の課題がありますが、この走行中ワイヤレス充電システムが他の充電方式と比べて社会インフラとして負担が少なく合理的なシステムであるかを見極めるべく、検討を進めていきます。

金﨑正樹

著者:金﨑 正樹

R-フロンティア部 第1エネルギーグループ 主任
長岡技術科学大学電気電子情報工学専攻修了。電気機器の省エネ化、高性能化を研究するパワーエレクトレロニクスが専門。
19年12月より開発リーダーとして走行中ワイヤレス充電プロジェクトを牽引。1年の開発期間で電波規格CISPR11ClassB基本波満足を世界初で達成する。これまで30件の特許出願に貢献。並行してBEVを用いての再エネ普及加速を狙ったテーマを立ち上げ。夢は今後100年以上続く持続可能社会の基盤を作ること。

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