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インフォマティクスを用いた省ネオジム磁石開発の効率化

2022.05.31

電動車向けの高出力モーターに使用されているネオジム(Nd)磁石は、レアアース資源の需給バランスへの柔軟に対応することが求められています。

トヨタ自動車では、インフォマティクスに基づいた手法を活用して、性能を向上させるための、新たな因子を見出しました。

磁石材料における電子顕微鏡像活用の限界

 トヨタ自動車では、これまでの研究開発において、Nd磁石のNdをLaとCeに置き換えても、磁力・耐熱性の低下を抑制できる新技術を見出しました。(引用)

一方で、このNd使用量を減らした省Nd磁石の実用化するためには、キー技術である『コアシェルニ層構造』の最適化による、特性の向上が課題の一つとして残されていました。

『コアシェルニ層構造』の最適化のためには、磁石全体にわたってコアシェル組織の状態を定量的に把握する必要があります。しかし、一般的には電子顕微鏡からは非常に狭い領域の情報を得ることしか出来ず、このNd使用量を減らした省Nd磁石材料全体にわたって定量情報を得ることはほぼ不可能でした。

figure1

XRDを活用した材料組織状態の把握への挑戦

そこで、より広い領域の情報を平均的に取得できるXRD(X-RAY Diffraction)に着目しました。

XRDスペクトルデータには、一般的に着目する

・ 結晶相
・ 格子定数
・ 結晶子径

などの情報以外にも、多くの情報が含まれていることが知られています。

しかし、多くの場合は特定の情報のみに着目し、ほとんどの情報が未活用でした。この状況に対して、インフォマティクスを用いて、XRDスペクトルデータの使い切りに挑戦致しました。

figure2
WAVEBASEシステムを活用したXRDデータからの情報抽出

XRDスペクトルデータより、情報を抽出するにあたり、

・ ヒトの目による判断を排除して機械的に取り出す
・ 性能や材料作成時のプロセスデータとの相関確認が容易

との理由より、PCA(主成分分析)を手法として選定致しました。

PCAを応用することで、1つのスペクトルデータを構成するいくつかの要素(主成分:PC0、PC1、PC2・・・)に分解することが出来ます。今回のケースでは、これらの要素が性能とどのように相関しているか、を丁寧に確認することで、特に性能と相関のある要素、すなわち『コアシェルニ層構造』を表す可能性のある情報(PC0、PC1)を見つけることが出来ました。

figure3
主成分の解釈による開発への応用

ここで、PC0とXRDの関係を確認します。『コアシェルニ層構造』を作り出すための処理を行った前後のXRDとPC0を比較すると、主相に由来するピークの処理前後の差分と、PC0の形状が非常に近いことが分かる。

ここから、PC0は、ピークの低角度側へのシフトを表していることが分かります。 『コアシェルニ層構造』は、Ndをシェル部に濃化させることで実現されるため、格子定数が増大(すなわちXRDピークが低角度側へシフト)することに対応しています。

トヨタ自動車では、今回得られた結果を開発に取り入れ、更なる検討を進めています。

figure4

(引用) : Coercivity enhancement in Ce-Fe-B based magnets by core-shell grain structuring

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