エコモニタリングの成果から

湿生生物観察園での生物多様性ー棚田の跡地を湿地に



○トンボ類からみた湿地の変化と維持管理
■ 湿生生物観察園のトンボ
トンボは湿地の代表的な動物です。1997年に、湿生観察園ができてから、ここではハッチョウトンボをはじめたくさんの種類のトンボが確認されるようになりました(これまで36種のトンボが確認されています)。
整備翌年の1998年と2003年、2007年と約5年ごとにトンボ類の分布状況を調査してきました。その間の湿地の変化にともなってトンボの確認状況も変化していきました。

以下に湿生生物観察園の植物の変化の様子を示します。
植生の変化
1998年
簡易植生
整備した翌年です。水面が広く、丈の高い草や低い草がモザイク状に生育して、まだ安定していません。植物種が急に増加した年でもあります。
右矢印2003年
簡易植生2003
一度丈の高い草で湿地のほとんどが覆われかけましたが、維持管理の方法を変えることで、再び水面が現れ、いろんなタイプの湿地環境が見られるようになりました。
右矢印2007年
2007簡易植生
維持管理を続けて2003年とほぼ同様の植生構成を保っています。
若干周辺部の乾燥が進んできています。
簡易植生凡例

■ 湿生生物観察園の変化とトンボの確認状況の変化
1

撹乱によって生じる明るい水面を好む種:シオカラトンボ

シオカラトンボは撹乱によって生じる明るい水面を好むため、整備当初の1998年に最もたくさん確認されましたが、その後湿地が安定してくるにしたがって、数は減少していきました。

シオカラトンボ
シオカラトンボ

シオカラトンボの分布1998 右矢印シオカラトンボ分布2003 右矢印シオカラトンボ分布2007年
流水や水面の周辺でよく確認されました。 一面草に覆われた中に残った水面(4の池)の周辺に確認されました。水面として維持している5の池と4の池の周りで確認されました。

2浅い水面に草がまばらに生えた環境を好む種:ハッチョウトンボ

ハッチョウトンボは、非常にミクロな環境に強く依存するので、以下の写真のように、浅い水面に草がまばらに生えた環境が少しでもあれば、このような場所に集まってきます。

1998年
居場所1998
最も多く確認された5の池の状況

右矢印2003年
居場所2003
最も多く確認された4の池の状況
右矢印2007年
居場所2007
最も多く確認された3の池の状況

しかし、当初に比べると湿地として安定してきた分、浅い水面に草がまばらに生えた環境が少なくなりつつあるので、もう少し広い範囲での堀り取りなどの実施などの維持管理が必要です。
ハッチョウトンボ
ハッチョウトンボ
ハッチョウトンボの分布1998右矢印ハッチョウトンボ分布2003右矢印ハッチョウトンボの分布2007
水深の浅い水面が広く広がっている5の池で多く確認されました。水面が残っていた4の池の周辺で確認されました。掘り取りを行なっている3の池から4の池にかけて確認されました。
5の池は水面として維持されていますが、堀取りを行なっていないので、だいぶ乾燥化が進んでいます。
まる3

シオヤトンボ
シオヤトンボ
安定した湿地を好む種:シオヤトンボ

シオヤトンボは整備直後は確認されませんでしたが、その後徐々に確認数が増えていきました。

シオカラトンボとシオヤトンボはともに抽水植物が生い茂る湿地や休耕田、水田で生育します。両種とも、成熟個体は羽化水域を離れてかなり遠くまで飛ぶことが知られています。
シオカラトンボはその飛翔力で、新しくできた水面や湿地を素早く探して、生息場所を移していくのに対し、シオヤトンボは、湿地がある程度安定してから、そこを生息場所として根を下ろしていく傾向が見られました。
1998年
シオヤトンボ分布1998
右矢印2003年
シオヤトンボ2003
右矢印
2007年
シオヤトンボ分布2007
このときシオヤトンボは確認されていませんでした。5の池と4の池の脇の草地で2個体確認されました。湿地全体で確認されました。かなり分布を拡大しました。



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