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2008年NASCAR特集

もっと知りたいNASCARの世界 第12回 NASCAR終盤戦、白熱するチャンピオン争い
ジミー・ジョンソン3年連続チャンピオンの偉業達成なるか

カイル・ブッシュvs.アーンハートJr. 早々崩れたチェイスの構図

 2月に開幕した2008年NASCARスプリント・カップ・シーズンも、いよいよ大詰め。タイトル争いは最終局面を迎えています。そこで、白熱しているチャンピオン争いを、シーズン終了前に振り返っていきましょう。

 今年の「チェイス・フォー・スプリント・カップ」は、カイル・ブッシュを中心に進んでいくと誰もが思っていました。今年からトヨタにスイッチした強豪ジョー・ギブス・レーシングに移籍したカイルは、スプリント・カップ・シリーズ参戦2年目で戦闘力が飛躍的に向上したトヨタ・カムリと共に大躍進。第4戦アトランタでトヨタに歴史的な初優勝をもたらしてから連戦連勝を重ね、「チェイス」開始前の“レギュラーシーズン”26戦で最多の8勝をマーク。ポイントランキングでも2位に大差をつける圧倒的な強さをみせ、一躍スターダムにのし上がったのです。「チェイス」開始前から多くの現地メディアもカイルの特集を組み、“ストップ・カイル!”誰がカイルの快進撃を止めるのかという報道が全米中を駆け巡りました。

 その一方で、ファンの関心が最も高かったのは、人気ナンバー1ドライバー、デイル・アーンハートJr.の初タイトルなるか、でした。今年から強豪ヘンドリック・モータースポーツに移籍し、第15戦ミシガンでは2年ぶりの優勝を挙げて完全復活。2年ぶりの「チェイス」にも進出を果たした今シーズン、悲願のチャンピオン獲得を全米中のNASCARファンが願っていたといっても過言ではないほどの盛り上がりぶりでした。「チェイス」前のレギュラーシーズン中に、カイルとはコース上で何かと因縁めいた出来事が多かったことから、“カイルvs.アーンハートJr.”対決を盛り上げる報道も多く見られました。

 しかし、これらの予想と期待は、「チェイス」開始早々に崩れてしまいました。カイルの18号車に、「チェイス」開始早々に信じられないメカニカルトラブルが続出したのです。「チェイス」が始まった時点でランキングポイントがリセットされてしまうため、結果的にカイルは「チェイス」進出ドライバーの最下位となる12位に転落。この時点で、ほぼタイトル獲得は消滅してしまいました。一方のアーンハートJr.も、クラッシュなどで下位に沈むレースが続いて「チェイス」中盤戦を前にチャンピオン争いから脱落。予想だにしない展開に、全米中が「チェイス」の厳しさと難しさを痛感しました。

急速に調子を取り戻した王者ジミー・ジョンソン、3連覇に王手

 カイルの脱落を尻目に、「チェイス」に入って調子を上げてきたのが2年連続王者ジミー・ジョンソンでした。チェイス3戦目のカンザスで優勝すると、その後も抜群の安定感でトップ5フィニッシュを連発。チェイス6戦目のマーティンスビルでは500周中339周ものリードラップを奪う圧勝でチェイス2勝目を挙げ、ランキングで追いすがるライバルたちに100点以上もの大差をつける独走態勢を築いていったのです。

 シーズン序盤は、所属するシボレーのワークスチーム、ヘンドリック・モータースポーツが予想外の不振に陥り、ジョンソンもランキング10位圏内にすら入れず苦しい展開が続いたものの、そこはチャンピオンチーム。シリーズ中盤に入ると連勝を重ね、しっかり「チェイス」に標準を合わせてきたのです。ジョンソンの強みは、そのスピードもさることながら、苦しい状態のときでも必ずレース中に修正してフィニッシュに持ち込む粘り強さにあります。レース開始早々に周回遅れになったもののその後盛り返し9位に入ったチェイス4戦目タラデガのレースは、まさにジョンソンの真骨頂と言えます。崩れそうになっても決して崩れないこの安定感こそが、短期決戦の「チェイス」に求められるのです。第35戦のフェニックスでは、チェイスに入って3度目の優勝を飾り、最終戦を残してランキング2位のカール・エドワーズとは141点差に広げました。NASCAR史上たったひとりしか達成していない3年連続王者の誕生が、いよいよ現実味を帯びてきたといえます。

チェイス・フォー・スプリント・カップ スタート
カイル・ブッシュの思わぬ展開
エドワーズとビッフル、逆転タイトルの可能性にかけるふたりのフォード勢

 そのジョンソンを必死で追走しているのがフォードの2台。フォード系ワークスチームのラウシュ・フェンウェイ・レーシングの若きエース、カール・エドワーズと、39才のベテラン、グレッグ・ビッフルです。今年のフォード・フュージョンは、トヨタ・カムリと並んでNASCAR屈指のスピードを誇っており、クルマの戦闘力は申し分ありません。特に、今やフォードのエースドライバーとなったエドワーズは、レース終盤の追い込みに定評があり、「チェイス」に入ってからもその走りでジョンソンを追走。3位、3位、2位とジョンソン顔負けの安定感を見せていたのですが、チェイス4戦目のタラデガでクラッシュ。続くシャーロットでは痛恨のエンジントラブルに見舞われる不運が重なり、ジョンソンにポイントで引き離されてしまったのです。しかし、悲願の初タイトル獲得に執念を見せるエドワーズはチェイス7戦目アトランタで得意のレイトチャージを見せて逆転優勝すると、続くテキサスでも驚異的な燃費作戦を成功させて2連勝。第35戦のフェニックスでジョンソンに優勝を許し、タイトルに王手をかけられた形になってはいますが、エドワーズも4位と粘りを見せて最終戦までチャンピオンの行方は持ち越されました。エドワーズに残された逆転優勝の可能性はわずかではありますが、どんなことでも起こりうるのがNASCARです。奇跡の実現に向けて激しい走りを見せてくれることでしょう。

 このエドワーズに次ぐランキング3位につけているのがチームメイトのグレッグ・ビッフルです。「チェイス」最初の2戦で連勝し周囲を驚かせた彼は、エドワーズとはまたタイプが異なり、粘り強いレースを強みとするドライバーです。過去にクラフツマン・トラック、ブッシュ(当時)の王者にも輝いており、最高峰スプリント・カップ・シリーズでもチャンピオンを獲得すればNASCAR史上初の3つのナショナル・シリーズをすべて制することになりますが、残念ながら第35戦で11位に沈み、ジョンソンとの差は203点とタイトルの可能性はなくなってしまいました。しかし、1.5マイルのインターミディエイト・トラックを得意にしており、最終戦ホームステッドでの走りが注目されます。

2年連続チャンピオン ジミー・ジョンソン 急激な追い上げを見せる、カール・エドワーズ 本来の走りを取り戻してきたトニー・スチュワート
JGRのデニー・ハムリンとカイル・ブッシュ
有終の美となる走りを飾れるか
トヨタ勢は最後で意地を見せるか

 「チェイス」後、期待を大きく裏切ってしまったのがトヨタ勢です。前述のカイルを含め、同じJGRの同僚、トニー・スチュワートとデニー・ハムリンの3人が「チェイス」に進出し、初のチャンピオン獲得に向け万全の体制が出来上がったと思われました。しかし、「チェイス」後はカイルだけではなく、スチュワートとハムリンにもメカニカルトラブルやレースアクシデントが続出し、「チェイス」序盤戦で早々とタイトル争いから脱落してしまったのです。「なぜチェイスに入ってからメカニカルトラブルが続出したのか原因はまったくわからない。不運としか言いようがない」とJGRのプレジデント、J.D.ギブスも無念の表情。それでも、「チェイスに入ってからは不運が続いたが、トヨタと共にここまで成し遂げた結果は誇りに思うし、予想を超える素晴らしいものだった」と、トヨタとの初年度の活躍には満足感はあります。タイトル獲得の可能性は消滅したトヨタ勢ですが、最終戦ホームステッド・マイアミ・スピードウェイのレースでは意地を見せたいところです。

※本文は、2008年11月9日(日)NASCARスプリント・カップ・シリーズ第35戦 フェニックス・インターナショナル・レースウェイ開催までを対象としています。


NASCAR特集 Index
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第1回 NASCARってなあに 第2回 NASCAR人気の秘密
第3回 夢と憧れのスプリント・カップドライバー 第4回 NASCARの聖地、シャーロットを訪ねて その1
第5回 NASCARの聖地、シャーロットを訪ねて その2 第6回 写真で見るNASCARカーの秘密
第7回 2008年シリーズ中盤レビュー 第8回 後半戦の大きな見どころ、The Chaseとは?
第9回 オーバルトラックの秘密 第10回 チェイスを戦うトヨタ・ドライバー
第11回 NASCARを日本で楽しもう 第12回 NASCAR終盤戦、白熱するチャンピオン争い
第13回 チーム・ファクトリー最前線 第14回 トヨタのNASCAR最前線基地、TRD Competition Drive
第15回 2008年シーズンレビュー スプリント・カップ・シリーズ編 第16回 2008年シーズンレビュー ネイションワイド/クラフツマン・トラック・シリーズ編

All photos are courtesy of Toyota Motorsports.
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