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2008年NASCAR特集

もっと知りたいNASCARの世界 第13回 チーム・ファクトリー最前線
工場とアミューズメントが一体化した、まさにNASCARのワンダーランド

一大企業体と化した今日のNASCARチーム

NASCARの人気が上がり、競争のレベルが年々上昇するのに伴って、NASCAR参戦チームの規模も年を追うごとに巨大化しています。今や、従業員が500人以上というスーパー・ビッグチームも誕生し、その業務も単にレーシングマシンを製作するだけではなく、毎週にわたるレースのロジスティック、メディア対応担当のPR部門、スポンサー獲得に奔走する営業部門、ブランドイメージを高めるためのマーケティング部門などをチーム内に持ち、もはやレーシングチームという枠を超えた、一大企業体となっています。果たして、そのような多岐に及ぶ活動の拠点となるNASCARチームのファクトリーとは一体どの様なものなのでしょうか? トヨタエンジンユーザーの2チーム、ジョー・ギブス・レーシング(JGR)とマイケル・ウォルトリップ・レーシング(MWR)のファクトリーに潜入し、驚きのファクトリー内部を実際に見ていきましょう。

ジョー・ギブス・レーシング
建物はとても瀟洒
マーチャンダイズも充実! カイル・ブッシュがインフィニオンで優勝したタイヤ カイル・ブッシュのマシンのエリア
トニー・スチュワートのエリア
マシニングセンターがズラリと並ぶ、工作機械ルーム
ジョー・ギブス・レーシングは従業員430人の巨大チーム

 今年からトヨタユーザーとなったJGRは、NASCARを代表するビッグチーム。2000年、2002年、そして2005年と3度ものカップ王者に輝いた、文字通りNASCAR屈指の強豪です。今年はスプリント・カップ・シリーズにトニー・スチュワート、カイル・ブッシュ、そしてデニー・ハムリンと3台をエントリーさせており、ひとつ下のネイションワイド・シリーズにも毎戦出場するなど、そのレースオペレーションは常に忙しい状態となっています。従業員はじつに430人。そんなチームの前線基地ともいえるチーム・ファクトリーは、NASCAR産業の中心地ノースカロライナ州シャーロットから20マイルほど北上した場所に位置しています。敷地の入口にチームのロゴが入ったサインがあるものの、建物自体には特にチームを示す看板などは見えず、一見したらレーシングチームの建物とは思えないほどです。このファクトリーには、営業時間内であれば誰でも入ることができ、クルマの製作現場を建物の上部から見学することができます。チームのマーチャンダイズ売り場もあり、なかには“カイル・ブッシュがレースで使用したタイヤ1本40ドル!”といった珍しいグッズも販売されているほど。このファクトリー内でしか手に入らない、ファンにとっては垂涎モノのグッズが満載なのです。

1エントリーに付き年間13台、ドライバー3人で実に39台を生産!

クルマの製作スペースを見てまず驚くのが、その台数の多さ。ファクトリーを案内してくれたチーム・プレジデントのJ.D.ギブス曰く、「だいたい1エントリーにつき年間13台くらいのクルマを用意している」とのこと。JGRは3台体制なので、単純計算でも13台×3=39台! これに、ネイションワイド・シリーズのクルマも数台含めると、実に50台近くものクルマを保有していることになるのです。さらに驚いたことに、1台のクルマを組み上げるのに、「クルマ内部のフレーム製作で2週間、シャシーの製作&組み付けで2週間、さらにそれを全部組み立てないといけないので、だいたい1カ月以上は掛かる」とのこと。折しも、今年からNASCARは次世代マシンCOT(カー・オブ・トゥモロー)に全面移行したことから、新しいクルマをイチから作り直さなくてはなりませんでした。3エントリー分のクルマをすべて作り上げることはもちろん、レースで優勝争いができる高い戦闘力を持ったクルマを用意する必要があったわけですから、このオフシーズンは例年に比べ、大変な労力を費やしました。別の言い方をすれば、そんな作業を実際に成し遂げたことこそが、JGRがNASCARを代表するトップチームである所以だと言えます。

「COTの製作はたしかに大変だったが、チーム全体がハードワークを重ねた成果が今年の成績に表れている。正直言って、カムリの戦闘力が上がっていることはわかっていたが、ただここまで優勝を重ねられるとは正直思っていなかった。この勢いを来年以降も持続させていきたいね」と、J.D.ギブスはチーム全体の働きに胸を張っていました。

建物の裏手は、ピットストップ練習用のエリア
メカニックや従業員のためのフィットネスルーム
マイケル・ウォルトリップ・レーシングのファクトリー NASCARにまつわるさまざまな展示 TRD-USAを紹介するコーナー
NASCARドライバーの装備のディスプレイ
実際にマシンを作っているファクトリー
ファクトリーの建物の裏にはピットストップ練習エリアも完備

 マシンの製作エリアも、実際のクルマを組み付けるエリアと、フレームやシャシーを製作するエリアの2箇所に分かれています。さらに、シャシーのパーツを作る最新の工作機械も多数有し、そういったパーツを効率よく保存する倉庫スペースもかなり大きく取られています。また、チームスタッフ用のトレーニングルームやリラックスルームはもちろん、ファクトリーの建物裏には実際のサーキットのピットエリアを似せて作られたピットストップ練習用スペースも完備。まさに、レースを勝つためのあらゆる要素が満載されている前線基地と言えます。

 「チームの目標はもちろん優勝。そのための労力は惜しまないし、我々のチームにはそれを達成できる人材もそろっている。特に、今年からトヨタにスイッチしたことでチームにとっては新しいチャレンジになっているが、TRD-USAとの仕事は本当にエキサイティング。我々が今まで知りえなかった情報の交換もできているし、素晴らしい関係を築けているよ」。トヨタという新しいパートナーを得た “新生JGR”に、チーム・プレジデントのJ.D.ギブスも大きな自信を見せています。

どんな作業をしているのかひと目でわかる見学コース マイケル・ウォルトリップのレースカー 工作機械の部屋であるマシンショップ
マイケル・ウォルトリップ・レーシングはまさにレースのテーマパーク

 勝つための要素が詰まっていたJGRのファクトリーとは対象的に、ファンとのコラボレーションを第一に考えられたのが、MWRのチーム・ファクトリーです。NASCAR屈指の人気ドライバーで、チームオーナーのマイケル・ウォルトリップが「すべてはファンが楽しめるスペースを提供する」というコンセプトのもと、2年前にオープンしたこのファクトリー。チーム・ファクトリーというよりも“NASCAR版アミューズメントパーク”といった方が適正かもしれません。実際、この施設はRACEWORLD USAと名付けられ、建物の外観からはレーシングチームのファクトリーだとはまったく想像すらできないほどです。

 建物の中に入るとさらに驚きの連続です。チーム所属ドライバーのディスプレイスペース、マーチャンダイズ売り場はもちろん、以前まで映画館だった建物を改造して作られたことから、本格的な映像ルームも完備。MWRのチームに関するビデオが何と無料で見ることができるのです。さらに、15ドルの入場料を支払うと、正面ロビー中央の階段を上って、今度はファン自らがNASCARマシンを触れて、感じられるエリアに入ることができます。実際のドライバーシートに座ったり、レーシングタイヤの秘密に触れることが出来たりといった貴重な体験をした後には、いよいよ実際にクルマを製作しているチーム・ファクトリーエリアを見学できる仕組みになっています。

大型のマシニングセンター
トランスミッションとギヤを作っている部屋
ピット作業の練習エリア
レースカーワールドを堪能したら、最後はお土産
ファンに楽しんでもらうための工夫が満載

 ファクトリーエリアもファンを飽きさせないためさまざまな秘密が隠されています。ファンはただ上から見るだけではなく、どこのスペースでどのような作業が行われているかを、常設された電子パネルで把握することができますし、さらにクルマの製作エリアのど真ん中上部に歩行通路が設置されているため、クルマがどのように作られていくのかも一目瞭然。また、JGRのファクトリーにもあったピットストップ練習用のエリアも訪れたファンに開放されており、実際の練習風景を常設の観戦席から見ることができます。ファンに楽しんでもらうことを第一優先に考えられて作られた、まったく新しいタイプのチーム・ファクトリー、それがMWRのRACEWORLD USAなのです。


NASCAR特集 Index
NASCAR特集Index
第1回 NASCARってなあに 第2回 NASCAR人気の秘密
第3回 夢と憧れのスプリント・カップドライバー 第4回 NASCARの聖地、シャーロットを訪ねて その1
第5回 NASCARの聖地、シャーロットを訪ねて その2 第6回 写真で見るNASCARカーの秘密
第7回 2008年シリーズ中盤レビュー 第8回 後半戦の大きな見どころ、The Chaseとは?
第9回 オーバルトラックの秘密 第10回 チェイスを戦うトヨタ・ドライバー
第11回 NASCARを日本で楽しもう 第12回 NASCAR終盤戦、白熱するチャンピオン争い
第13回 チーム・ファクトリー最前線 第14回 トヨタのNASCAR最前線基地、TRD Competition Drive
第15回 2008年シーズンレビュー スプリント・カップ・シリーズ編 第16回 2008年シーズンレビュー ネイションワイド/クラフツマン・トラック・シリーズ編

All photos are courtesy of Toyota Motorsports.
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