1.教育・人材育成の基本的な考え方

トヨタにおける人材育成は、会社設立翌年の1938年(昭和13年)11月に豊田工科青年学校開校からはじまり、翌年4月には養成工教育(現 トヨタ工業学園)を開始するなど、脈々と継続している。また、豊田英二最高顧問は「人間がモノをつくるのだから、人をつくらねば仕事も始まらない」と人材育成の必要性を強調し、「モノづくりは人づくり」という考え方は、トヨタの教育・人材育成の理念として今日に至るまで継承されている。

「The Toyota Way 2001」(2001年4月刊行)は、1992年(平成4年)に策定した「トヨタ基本理念」を企業活動の中でいかに実現するかという視点から、トヨタに働く人間としてどのような価値観を共有し、どのような行動を取るべきかを「知恵と改善」と「人間性尊重」を2つの柱にして整理・集約したものである。トヨタでは従業員一人ひとりの能力・考える力・創造力を最も大事な経営資源ととらえ、「知恵と改善」の主体である従業員の「人間性尊重」が会社理念となっている。「人間性尊重経営」の具現化を目的とし、人事労務管理の原則として「相互信頼・相互責任関係」を確立するために、トヨタでは「会社を信頼して働ける職場づくり」「恒常的・自発的な知恵/改善を促進する仕組みづくり」「個々人の役割遂行と全体最適を目指したチームワークの促進」に加え、「徹底的な人材育成」に努めている。その要点は下記のとおり。

仕事を通じた自己成長の促進

機会と動機を与えられ働く者として成長していくことが、従業員にとっては仕事のやりがいの最も大きな要素であると同時に、そうした自己成長の機会を提供することが会社として従業員に示すことのできる最も大きな人間性尊重の姿である。そうしたことから、トヨタでは人材育成を徹底的に実施することを重視し、挑戦的なテーマの付与や改善などを通じたOJT(On the Job Training)による育成に加えて、中長期的な育成の観点から計画的な教育や人事異動を実施している。

従業員個々人の能力向上

従業員の能力を最大限活かすことを経営手法とするトヨタでは、従業員の育成は重要な経営投資としてとらえている。また、従業員一人ひとりの能力を開発することが、少数精鋭集団を実現し、固定人員を適正化することに繋がり、経済合理性を高めると考えられている。

中長期的な視点からの人材育成

自動車産業・トヨタ特有の知識・技術・技能を修得するためには、自ずとある程度の時間がかかる。人材育成の基本的な考え方としては、中長期的視点から、組織全体の底上げをはかり、結果として組織全体でのパフォーマンスを高めることが肝要である。特に人事異動は人材育成の有効かつ重要な手段であり、特に優秀で意欲の高い従業員については、将来のリーダー候補として中長期的・計画的に育成している。具体的には従業員へのキャリアパスの提示と自己申告制度による本人意思・意欲の確認、サクセッションプランによる育成計画のストーリー作り、業務経験を通じた育成目的のローテーションを実施する。

OJTの重視

人材育成の基本は業務を通じたOJTであり、部下育成は上司の最も重要な責務の一つと位置付けられている。日々の業務を通じて、上司が部下に問題解決に向けた分析手法や対策の方向性を追加・修正し、対策を実行していく上でのプロセスを伝授していくことが何よりも効果的である。決裁過程で徹底的に議論することや年間業務テーマの遂行を部下に求めていくこともOJTのポイントである。OJTの繰返しにより、上司にとっては部下の実力、強み・弱みを具体的に把握でき、それに基づいた育成が可能となる。