3. 新生トヨタとTQCの広がり

(1)管理能力プログラムの展開

管理者教育の風景

管理者教育の風景

デミング賞受賞から10年以上経過した1970年代末には、受賞当時の活動の中心になった部次課長が少なくなり、「PDCAのサイクルが回っていない」「管理者の発表に迫力がない」など、管理者の能力不足が指摘されるようになった。

そこでトヨタは、1979年(昭和54年)から2年間にわたり、方針管理の再徹底と管理能力の向上を目指した「管理能力プログラム」を展開した。このプログラムでは、部次課長が管理者としての重点テーマを取り上げ、年度を通じて改善活動に取り組み、社長以下役員全員が繰り返し点検と指導にあたった。

(2)工販合併とTQCの拡大展開

第1回トヨタ販売店QC全国大会

第1回トヨタ販売店QC全国大会

1982年(昭和57年)、トヨタ自動車工業とトヨタ自動車販売が合併して、新生トヨタが誕生した。

初心に立ち返り、全員がそれぞれの立場で、1.お客様第一主義に徹し、2.QCの基本的な考え方を身につけ、3.その実践を通じて、変動に柔軟に対応できる企業体質を強化向上させることを、合併後のTQC推進のねらいとした。

1983年6月には、第1回役員QC研修会が、2泊3日のスケジュールで全役員の参加のもと実施された。

同年、販売店においても「方針管理」と「QCサークル活動」の2本柱によるQCの展開が開始され、翌1984年には「第1回トヨタ販売店QC全国大会」が開催されるまでとなった。さらに1987年には「第1回トヨタ海外生産会社QCサークル交流会」が開催されるなど、販売会社や海外生産会社を含めた「オールトヨタで品質保証をする」枠組みが整備されていった。

(3)SQC、QCサークル活動、創意くふう提案制度の再徹底

1950年(昭和25年)に試験的に管理図法を導入して以来SQC手法の活用は本格化したが、その後1980 年代に入ると、エレクトロニクスを中心に新しい技術への対応が課題となる一方、技術員の品質解析能力の低下を危惧する声が多くなっていた。また、パソコンが身近に使えるようになり、手計算の時代には使えなかった多変量解析の活用が容易になるなど、SQCを取り巻く環境も大きく様変わりしてきた。

同じ頃、現場の第一線のメンバーを中心に展開している「QCサークル活動」や改善の風土醸成を目的とした「創意くふう提案制度」も形骸化が指摘されるようになり、それぞれの活動が見直しを迫られた。

SQCでは、1988年から「SQCルネサンス」と称し、実務活用の促進と成果への寄与をねらいとした新たな推進活動が開始された。実務活用の支援体制を確立したことで、品質向上や原価低減などの技術的な課題の解決に有効ツールとして再認識され、活用領域も拡大された。

「QCサークル活動」では、「個人の能力向上」や「明るい職場づくり」といった原点に立ち返るため、1993(平成5年)年から「New QCサークル活動」が展開された。管理監督者が「QCサークル活動」の本来のねらいを再度理解し、これに沿った活動に導くため、「管理監督者の教育」や「管理監督者推進事例の共有」などが実施された。

また、「創意くふう提案制度」においては、提案件数競争が過熱し、改善・提案を通じた上司から部下への指導が難しくなる現象も見られたことから、審査基準や表彰基準が見直されるとともに、提案件数の全社目標が廃止され、「量(提案件数)の拡大」から「質(提案内容)の向上」への転換が図られた。

  • 創意くふう提案制度ハンドブック

    創意くふう提案制度ハンドブック

  • QCサークル活動の風景(当時)

    QCサークル活動の風景(当時)

創意くふう提案件数・提案資格者一人当たり提案件数

創意くふう提案件数・提案資格者一人当たり提案件数

単位:件

西暦
和暦
提案件数
提案資格者1人当り提案件数
1951
昭和26
786
0.1
1952
昭和27
627
0.1
1953
昭和28
639
0.1
1954
昭和29
927
0.2
1955
昭和30
1,087
0.2
1956
昭和31
1,198
0.4
1957
昭和32
1,356
0.2
1958
昭和33
2,682
0.5
1959
昭和34
2,727
0.4
1960
昭和35
5,001
0.6
1961
昭和36
6,660
0.6
1962
昭和37
7,145
0.6
1963
昭和38
6,815
0.5
1964
昭和39
8,689
0.5
1965
昭和40
15,968
0.7
1966
昭和41
17,811
0.7
1967
昭和42
20,006
0.7
1968
昭和43
29,753
0.9
1969
昭和44
40,313
1.1
1970
昭和45
49,414
1.3
1971
昭和46
88,607
2.2
1972
昭和47
168,458
4.1
1973
昭和48
248,717
6.8
1974
昭和49
398,091
9.1
1975
昭和50
381,438
8.7
1976
昭和51
463,422
10.6
1977
昭和52
454,522
10.6
1978
昭和53
527,718
12.2
1979
昭和54
575,861
13.3
1980
昭和55
859,039
19.2
1981
昭和56
1,412,565
38.8
1982
昭和57
1,905,642
38.8
1983
昭和58
1,655,858
31.5
1984
昭和59
2,149,744
40.2
1985
昭和60
2,453,105
45.6
1986
昭和61
2,648,710
47.7
1987
昭和62
1,831,560
32.4
1988
昭和63
1,903,858
33.7
1989
平成元
1,966,786
34.8
1990
平成2
2,003,646
34.9
1991
平成3
2,076,077
35.6
1992
平成4
1,544,414
26.1
1993
平成5
929,257
15.9
1994
平成6
829,864
14.5
1995
平成7
764,433
14
1996
平成8
736,919
13.9
1997
平成9
729,632
13.9
1998
平成10
731,110
14
1999
平成11
686,698
12.5
2000
平成12
659,589
11.9
2001
平成13
616,109
11.7
2002
平成14
614,140
10.8
2003
平成15
533,978
9.16
2004
平成16
541,124
8.73
2005
平成17
600,051
9.23
2006
平成18
649,073
9.89
2007
平成19
744,523
11.19
2008
平成20
623,055
9.58
2009
平成21
493,869
8.18
2010
平成22
471,461
8.02
2011
平成23
457,342
7.67