労使関係

労使宣言・調印書

労使宣言

すでに欧米諸国においては、自動車産業は一国産業の中心として工業力の象徴であり、工業技術水準を示すバロメーターとなっている。わが国においても産業構造の高度化に伴い、自動車産業は基幹産業として、その盛衰が直接経済力の消長につながり、わが国産業のにない手として、絶大な衆望をになうに至った。しかし、その前途は、必ずしも安易なものではない。乗用車の貿易自由化も目前に迫り、近い将来国際市場できびしい競争に直面しなくてはならない。さらに加えて、昨年以来経済も調整期に入り、決意を新たにすべき時期に当面している。

われわれは、当社創立以来終始国産大衆乗用車の確立を目標とし、また広く社会と大衆に奉仕することを伝統的信条として日夜精進してきた。かくて、今日すでにトラック、特殊車などで性能、品質、価格ともに国際水準に達し、全世界各地域に進出し、欧米諸国と覇を競っていることは、急上昇している輸出実績が立証するところである。
われわれは、創業以来のこの意気と輝かしい実績に自信と信念をもち、乗用車の貿易自由化をりっぱに乗り切り、この試練を積極的に活用して、国際市場において一大活躍を期する覚悟である。
会社と組合は、かかる重大なときに当り、日本の自動車産業およびトップメーカーとしての当社に課せられた社会的使命と、任務の重大さを強く心に刻み、誇りある歴史と伝統の上にたち、この難局を労使相たずさえて敢然と乗り切るため、次の通り宣言する。

1.自動車産業の興隆を通じて、国民経済の発展に寄与する。

わが国の基幹産業としての自動車産業の使命の重大さと、国民経済に占める地位を認識し、労使相協力してこの目的のため最善の努力をする。とくに企業の公共性を自覚し、社会・産業・大衆のために奉仕するという精神に徹する。

2.労使関係は相互信頼を基盤とする。

信義と誠実をモットーに、過去幾多の変遷をへて築きあげてきた相互理解と相互信頼による健全で公正な労使関係を一層高め、相互の権利と義務を尊重し労使間の平和と安定をはかる。

3.生産性の向上を通じ企業の繁栄と、労働条件の維持改善をはかる。

そのために、労使は互にその立場を理解し、共通の基盤にたち、生産性の向上とその成果の拡大につとめ、その上にたって雇傭の安定と労働条件の維持改善をはかり、さらに飛躍する原動力をつちかわなくてはならない。会社は企業繁栄のみなもとは人にあるという理解の上にたち、進んで労働条件の維持改善に努める。また、組合は生産性向上の必要性の認識の上にたち、企業繁栄のため会社諸施策に積極的に協力する。

以上三つの基調の上に立ち、
(1)品質性能の向上
(2)原価の低減
(3)量産体制の確立
をはかる。


われわれは、ここに自動車産業の公共的使命をさらに自覚し、目前に迫る自由化を有効適切な対策により乗り切り、日本の産業と国民経済の生々発展に協力し、日本のトヨタから世界のトヨタへ輝かしい栄光を獲得すべく、会社、組合ともに相たずさえて努力することを誓う。


1962年(昭和37年)2月24日

トヨタ自動車工業株式会社   取締役社長 中川不器男
トヨタ自動車労働組合トヨタ支部 執行委員長 加藤和夫 

21世紀に向けた労使の決意

戦後の混乱期の中でともに辛苦を重ねた経験から、われわれ労使は、お互いの理解と信頼に基づく健全で公正な労使関係を築き上げることが何よりも大切であることを学んだ。
「生産性の向上を通じて企業基盤を確立し、労働条件の維持・改善を図る」という考え方は、先人のたゆまぬ努力と体験の中から生み出された他に誇り得る財産であり、この精神は1962年に締結された「労使宣言」に力強くうたわれている。
会社と組合はこの精神を不断の努力で実践し、その結果、トヨタは世界でも有数の企業に発展し、働く者の生活を豊かにしてくることができた。


しかし、21世紀を目前に控え、トヨタを取り巻く環境の変化はかつてないほどに激しく厳しい。
先進国経済の成熟化と途上国経済の発展を背景とした国際競争の激化、それに伴う国内空洞化の懸念、さらには地球環境・エネルギー問題、急速に進む中高齢化、高度情報化社会への対応など、トヨタのみならず、日本の自動車産業、そして世界経済そのものが構造的な転換期を迎えている。
こうした中で、日本が世界経済や国際社会との調和を図りつつ、今後も繁栄の道を歩むためには、世界に冠たるモノづくりの拠点としての揺るぎない基盤を築き上げていかなければならず、基幹産業たる自動車産業に、とりわけトヨタに課せられた責務は極めて大きい。


われわれ労使は、この社会的使命を心に刻み、「企業の繁栄が、そこに働く者の幸せにつながる」との確固たる信念のもと、

1.
グローバル企業として、国際社会の中で新たに飛躍をしていくこと
2.
世界と競争し得る生産性の向上、モノづくりを支える技術開発力の強化や技能の育成・伝承などを通じ、労使繁栄の源としての国内の企業基盤を確立していくこと
3.
日本の経済・社会を、公正で豊かなものにしていくこと


を目指し、新たな成長を実現していくための活力と創造性に満ちた企業をつくりあげていかなければならない。


かかる重大な命題を抱えた今、会社は、企業としての構造改革をなし遂げていかなければならない「第2の創業期」を迎え、組合は、新たな出発点たる「創立50周年」という節目の時を迎えた。
われわれは、先人のたゆまぬ努力によって培われたトヨタの誇りある歴史と伝統の上に立ち、ここに次のとおり決意する。

(1)

グローバル企業として世界経済の発展に寄与するとともに、国際社会への貢献を果たす。

21世紀を社会にとって、またトヨタにとっても真に豊かなものとしていくために、人や社会、地球環境、世界経済との調和を図りつつ、われわれと関わりのある多くの人々とともに、労使相たずさえて新たなる成長を図る。

(2)

労使関係は、相互信頼と相互責任を基盤とする。

健全で公正な労使間係の基盤である相互の義務の履行と権利の尊重を遵守し、互いに労使相互信頼の精神を末永く引き継いでいく。

(3)

いきいきと働くことのできる企業風土づくりとより高い付加価値の創造に向けて、労使は共通の基盤に立ち、それぞれの役割を全うする。

会社は、企業繁栄の源は人にあるという理解の上に立ち、働く者がいきいきと創造性を 発揮できる企業づくりに努めるとともに、生活の基盤である雇用の安定と労働条件の維持・向上に進んで努力を尽くす。
組合は、働く者の真に豊かな生活を実現していくためには企業基盤の維持・強化が 不可欠であるとの認識のもとに、国際的な視野に立ち、高い付加価値に裏付けられた国際競争力の向上に向けて自ら精進・努力し、会社諸施策に積極的に協力する。

(4)

日本全体を視野に入れ、働く者の真に豊かな社会・生活を実現する。

企業労使の繁栄のみならず、広く日本の働く者の豊かな生活の実現に向け、企業活動・組合活動のあらゆる分野において、日本の進路を切り拓く気概を持ち、リーダーシップを発揮していく。

以上の決意を確認し、会社と組合が相たずさえて努力することを誓う。


1996年(平成8年)1月27日

トヨタ自動車株式会社 取締役社長 奥田碩
トヨタ自動車労働組合 執行委員長 神野進