5. 原点に立ち返ったTQMの実践

(1)自工程完結を軸としたTQMの自律的実践

トヨタでは、従来から製造現場において「悪いものは造らない、次の工程に流さない」工程づくり、すなわち「品質は工程で造りこむ」が浸透しているが、長年の変遷のなか、心がけのみに留まっている部分もあった。

そこで「品質は工程で造りこむ」を確実に実践するために、科学的アプローチを加え、「仕事の良し悪しをその場で判断できること」を目指して「自工程完結」に向けた取組みをスタートした。

そのひとつの事例が、1996年(平成8年)の堤工場での「車両の雨漏れゼロ」への挑戦である。これは、従来大量の水を車にかける試験を行っていたものを、関連する製造ラインの約800工程を約2000項目の要素作業に分解して精査し、徹底的に構造要件、設備要件、製造要件を満たすよう改善を進めた結果、雨漏れ不具合が激減したものである。科学的アプローチを導入することにより、より難易度の高い領域でも自工程完結が達成された。

一方、事務や開発などのスタッフ部門では、お客様のニーズの多様化や技術の高度化・複雑化により、仕事の分業化と細分化が進み、仕事のプロセスが複雑かつ多様になってきている。

また、ビジネスの拡がりによる繁忙や働く人材の多様化によって、知的財産の蓄積と活用が追いつかなくなり、結果的に仕事のやり直しなどのリスクが増大してきた。

スタッフ部門の業務は、意思決定の連鎖であり、一つひとつの意思決定を正しく行うことが大変重要になる。そのため、1.目的・目標を明確にする、2.他部署との関わりを含めて意思決定の順番(プロセス)を決め、要素作業に分解する、3.各要素作業において正しい意思決定を行うためには、どのような情報や能力が必要なのかといった諸条件(良品条件)を整備していく、という科学的アプローチが有効であると考えられる。

こうした問題意識を背景に、2007年からスタッフ部門に対しても、科学的アプローチを加えた自工程完結を展開している。

一人ひとりの業務のあるべき姿

一人ひとりの業務のあるべき姿

(2)創意くふう提案制度の活動の充実

文部科学大臣賞(旧科学技術長官賞)の受賞推移

文部科学大臣賞(旧科学技術長官賞)の受賞推移

1960年(昭和35年)に科学技術長官賞(職域における創意工夫功労者表彰)が制定されると、トヨタでは、初年度から継続して毎年10件前後の受賞を継続してきた。なお、同賞は1992年(平成4年)に文部科学大臣賞へと替わり、現在に至っている。

2005年には、優秀提案への誘導や受賞による明るい職場づくりをねらい「文部科学大臣賞の取組み3ヵ年計画」を展開し、受賞数のトップクラス会社を目標として活動を始めた。その結果、2009年には、トヨタから66件が受賞し、初めての受賞数日本一を達成した。同賞への申請を通じた人材育成にも取り組み、2011年まで3年連続で受賞数日本一を継続している。

創意くふう提案制度は、2011年に発足から60周年を迎えた。この間、提案件数や参加率に変動はあるものの、人材育成と改善風土醸成に大きく寄与し、提案件数も累計4,000万件を突破するなど、着実に成果を収めている。