第1節 元町工場の建設とTQCの導入

第7項 デミング賞受賞

トヨタ自工は、全社一丸となって推進してきたTQC活動の成果を世に問うため、1965(昭和40)5月、デミング賞実施賞に立候補した。

TQCを導入した直後には「検査をすれば品質がよくなる」という考え方が残っていたが、TQCの考え方や手法が浸透するにしたがい「品質は工程で造りこむ」という意識に変わり、明確な目標に向って各部が協力していく体制ができ上がっていった。その具体的な成果が3代目コロナ(RT40型)の円滑な生産開始であった。

1965年6月、デミング賞審査委員会に「品質管理実情説明書」を提出した。書面審査ののち、8月から東京支社、元町工場、本社工場、本社の順で、同委員会の綿密な実地調査が始まった。

10月に開催されたデミング賞審査委員会において、1965年度のデミング賞実施賞をトヨタ自工へ授与することが決定され、11月、東京・帝国ホテルにてデミング賞授与式が行われた。1965年はデミング賞創設15周年にあたっていたことから、授与式は米国からデミング博士を迎え、財界、学界の名士など多数の列席のもとに盛大に行われた。

QC推進本部の副本部長として、TQC活動の立案・検討から実施に至るまで推進に専念した豊田章一郎常務取締役(当時)は、次のように語った。

QC推進の具体策について、その効果をまとめてみますと、まず第1の効果は製品の品質がよくなったことであります。このことはTQC導入以来“品質は工程で造りこむ”ということが会社のすみずみまでしみわたった結果です。(中略)

第2の効果は、乗用車の国内市場における占拠率が増えたこと、および全体の輸出が伸びたことであります。おかげをもちまして、41年(1966年)5月には待望の月産5万台と月間輸出1万台の記録を実現することができました。

第3の効果は、原価が目標どおり低減したことであります。このことは、品質意識とともに原価意識が会社のすみずみまでしみわたった結果でありまして、品質と原価を2本の柱としてTQCを推進したことが、非常によい結果をもたらしたものと思っております。

また、効果の見方をかえてみますと、会社の体質が非常に改善されたことであります。その一つは管理者が管理の手法を覚えたこと、もう一つは会社全体を通じてヒューマン・リレーションが一層よくなったことであります。仕入先からトヨタ自販まで、ひとつの目標に向かって協力していく体制がTQCという手法を通じてでき上がり、お互いに自分のなすべき仕事の責任と権限がはっきりしたうえで、フランクに話し合いのできる場ができました。そして、その結果が品質保証規則および原価管理規則として標準化され、管理の定着が図られました。

「QCというものは役に立つ」ということを認識し、今後も喜んでQCを続けていこうという気持ちがみなぎっています。1

デミング賞実施賞の受賞後も、トヨタ自工はTQCをさらに強力に推進していくことを再確認し、デミング賞審査員の指摘を参考に次のような方針をたてた。

  1. 1.仕入先、販売店などの関連企業全体を含めた総合的なQCを推進する。
  2. 2.形式にこだわらず、簡素にして効率のよい管理体制を確立する。とくにチェックとアクションを確実にし、管理のサークルを早く回す。
  3. 3.総合企画を充実整備して、各管理体制の協調により、長期的な観点から迅速的確な決定、執行を図る。

この方針をもとに、1966年2月に、トヨタ関係8社2の間に8社QC連絡会を結成し、「オールトヨタで品質保証」を行うための具体策を検討する体制を整えた。トヨタ自工はこの後も全社監査を業務点検と改めて毎年実施するなど、さまざまな機会をとらえて粘り強くTQCを推進していった。

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