第2節 交通事故増加への対応

第3項 車両安全技術の開発

1960年代後半に入ると、国内外での車両安全規制強化を背景として、トヨタは車両安全技術の開発を積極的に進めていった。車両安全は大きく、車両衝突時の乗員保護(「衝突安全」)の分野と、事故回避のための安全対策(「予防安全」)の分野とに分かれる。1

衝突安全の分野では、1967年9月にモデルチェンジしたクラウン(MS50型)は、米国向け輸出仕様車についてエネルギー吸収ステアリングなど、既述のFMVSS(連邦自動車安全基準)20項目をすべて満たし、同時に国内仕様車もステアリングの後方突き出し防止装置、脱落式ミラーなどを自主的に採用するなど、各種安全対策を施した。

乗員の車外放出を防止する対策としてウィンドウガラスを直接、ボデーに接着する方法を開発し、1971年のクラウンから採用した。また、エネルギー吸収特性を改善した一体成形インストルメントパネルを協力会社とともに共同開発し、1973年からコロナ(RT100型)に採用し、続いてカローラ、クラウンに採用していった。

シートベルトについては、運転中は乗員の行動の邪魔にならず、万一事故が起きた時には直ちにロックして乗員を拘束するELR2シートベルトを完成し、1973年米国向け輸出車から装着を開始した。

予防安全の分野においては、ブレーキ系統の信頼性向上が重要な課題であった。

高速道路網の整備に伴い、高速走行時の安全な制動のためにディスクブレーキ3の必要性が急速に高まってきた。トヨタは、1965年にディスクブレーキの装着をクラウン、コロナのスポーツ仕様車などから開始し、その後も次々に装着範囲を拡大していった。

また、タンデムブレーキマスターシリンダー4を1968年1月の米国向けのコロナとカローラから採用し、国内用では同年9月のコロナマークⅡ(RT60型)から採用し、ブレーキの作動信頼性を高めていった。

アンチスキッド装置5の先駆けとして、1971年2月からクラウン(MS60型、MS70型)にオプション採用したESC(電子制御式スキッドコントロール)についても、その後、適用を順次拡大していった。

車両安全技術を開発・実用化していくため、トヨタは安全関係の組織、設備を急速に拡大、充実していった。1966年5月、第2技術部の車両整備課より安全実験課を分離独立させた。翌1967年には本社テストコース内に実車衝突試験場が完成し、あわせて室内での安全実験設備も整備され、同年10月にはインパクトスレッド6を導入した。同時期に、製品企画室に車両安全技術の開発を統括する安全主査を置いて、トヨタとしていっそう積極的に取り組むようになった。7

このページの先頭へ