第1節 リコール問題への対応

第3項 品質向上への新たな取り組み

1970(昭和45)年の年頭、トヨタは安全や公害などの問題に対して一段と力を注ぐ決意を新たにし、会社の基本方針に第4項として「自動車産業の公共性を自覚し、社会の福祉に貢献する」を追加した。1

同年2月に、前年の総点検結果を受けて監査改良室を復活し、工場ごとに検査部を新設した。また監査改良会議の下部機構として自動車安全専門委員会を設け、技術開発や管理体制の整備を引き続き行っていくこととした。

さらに同年4月、1970年度の不良撲滅運動2のテーマは1969年度後期に引き続き、自動車の安全に関する不良撲滅とその再発防止を中心とした。そして、この運動を従来の工場部門だけのものではなく、購買、営業、品質保証、技術、生産技術部門も含めた全社的なものに改めた。QCサークルが行う不良撲滅のテーマも増加し、QCサークルは全社の不良撲滅運動の中心的存在になっていった。

また、前年の1969年に開発することを決定した総合品質情報システム「DAS(Dynamic Assurance System)」の運用を1970年12月に開始した。このシステムは、国内のみならず海外市場のクレーム情報について、クレーム費用の清算処理だけでなく、品質問題の技術的な情報としても評価し、品質保証活動を効果的に進めることを目的とするものであった。トヨタの品質保証体制は、この時期に大きく前進したのである。

また、1970年度会社方針では当年度でのデミング賞再受審を掲げ、31970年4月の取締役会で、デミング賞再審査を受けるための推進方針を決定した。将来の発展に備えて、品質管理の体制や方法を徹底的に見直すことをそのねらいとしたのである。同年5月には豊田章一郎専務を委員長とし、各機能・部門の代表者からなるTQC常任委員会を設け、本格的な準備を開始した。

このころ、日本科学技術連盟では、デミング賞再審査で優秀と認められる企業に、新設の「日本品質管理賞」を授与することを決定している。1970年9月、日本科学技術連盟のデミング賞審査団が来社し、2日間にわたり、本社各部門のほか各工場で審査を行った。審査に際しては、トヨタがこれまで重点的に取り組んできた、仕入先を含めた品質保証体制の整備の実情、自動車の安全・公害防止の徹底についての実施状況などを説明した。

その結果、トヨタは以下のとおり、全社的活動を推進し、品質の維持・向上に著しい成果をあげていることが認められた。

  1. 1.デミング賞受賞当時の活動を基盤に各部門における管理活動をさらに充実させていること。
  2. 2.オールトヨタとしての企業活動が、日野自動車、ダイハツ工業との提携によっていっそう強化されていること。
  3. 3.不良撲滅運動がこれまでのQCサークル活動を活発化させて大きな成果をあげていることなど。

こうして、トヨタはデミング賞委員会から推薦され、「日本品質管理賞」の第1回受賞企業に選ばれた。授賞式は1970年11月17日に経団連会館で行われ、日本品質管理委員会の植村甲午郎委員長から豊田英二社長に賞状が手渡された。

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