第6節 新たな成長を目指して

第1項 海外拠点への投資再開

金融危機後の赤字決算を1期のみにとどめ、2009(平成21)年度での黒字転換を受けた2010年度に入ると、トヨタは2008年秋以降に凍結していた海外工場の建設を相次いで再開するなど、新たな成長に向けた布石を着々と打っていった。

中国では合弁会社である四川一汽トヨタ自動車長春豊越公司(SFTM長春)の新工場の稼働予定時期を2012年前半と決め、2010年4月から本格的に工場建設を開始した。同工場は、2008年10月に起工式を行っていたが、その直後に凍結状態となっていたもので、完成後は年10万台の規模でカローラの生産に着手する。2010年11月には「中国のためのクルマづくり」に向けた開発体制の現地化と強化を図るため、江蘇省常熟市に「トヨタ自動車研究開発センター(中国)」(TMEC)を設立し、2011年4月に業務を始めた。

TMECは最先端のテストコースや試験設備を備える開発拠点であり、同年10月には各施設の建設に着工、2013年に主要設備を完成させる。ハイブリッドシステムの開発チームも発足しており、2015年前後には中国産ハイブリッドユニットの搭載車を同国市場に送り出すプロジェクトの推進も担っている。

北米では8番目の車両生産拠点として、当初2010年の生産開始を目標としていた米国のトヨタ・モーター・マニュファクチャリング・ミシシッピー(TMMMS)の建設を同年6月に再開した。同社は金融危機後に稼働時期を白紙に戻していた。竣工後の2011年11月に地元関係者も待望したラインオフ式を迎え、年産能力15万台で、カローラの生産を開始した。

2012年2月には、米国のトヨタ・モーター・マニュファクチャリング・インディアナ(TMMI)の生産能力を2013年後半に、年28万台から33万台に引き上げ、ハイランダーの増産と新たにハイランダー・ハイブリッドを投入する増強計画を決めた。増産するハイランダーの一部は、オーストラリアやロシアなどにも輸出する計画であり、米国の生産拠点を輸出の基地として育成する方針も打ち出した。

中国やインドと並ぶ重要な市場であるブラジルでは2010年7月に、ブラジルトヨタ(TDB)の新工場建設を決定し、同年9月にサンパウロ州ソロカバ市で着工した。新工場は、2012年後半から新開発の小型車を年7万台の規模で生産開始することにしており、生産車の一部は南米地域への輸出に振り向ける計画である。

一方、インド市場向けにトヨタならではの品質を確保しながら、お求めやすい価格を目指した新車種の開発も推進した。2010年12月にはその第1弾として、2005年から開発を進めてきたエントリー・ファミリー・カー(EFC)をインドで発表した。1.5Lのガソリンエンジンを搭載したセダン「エティオス」であり、同月からトヨタ・キルロスカ・モーター(TKM)が新設した第2工場で生産を始めた。

エティオスは、エアコンなどにインド市場向け専用の設計を採用し、現地調達を拡大することにより、価格は49万6,000ルピー(発表時のレート換算約90万円)からと、地域の実情に即した「良品廉価」を実現した。2011年6 月には1.2Lエンジンのハッチバック車「エティオス リーバ」をシリーズに追加し、両車種の合計で年7万台の販売を目標に定めた。

また、小規模な現地生産をサポートする体制整備の一環として、2010年1月には中近東・アフリカ・中南米本部内にBR(Business Reform)組織のBR-KD事業室を設置した。第1弾として2010年10月、エジプトでの小規模現地生産に対応する現地法人の設立を発表した。

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