第3節 「第2の創業」―社内改革の推進

第1項 「トヨタ基本理念」を制定

トヨタが経営方針・計画を立案し、それに基づいて事業を遂行するようになったのは、1963(昭和38)年からである。その際、基本方針や長期目標、長期方策は、1935年制定の「豊田綱領」をベースに時代に沿った形で策定してきた。これらの長期方針は年度目標、年度方針、全社重点施策、年度スローガンという体系にブレークダウンして実行にあたり、経営トップによる点検も実施してきた。

しかし、1990年代に入ると円高の定着や通商摩擦の頻発、冷戦終結後の世界経済のボーダレス化、地球環境問題といった新たな経営課題が出現し、企業を取り巻く環境はグローバルに激変した。さらに、国内ではバブル経済が崩壊し、少子高齢化時代の到来が展望されるなど経済・社会の両面で閉塞感や先行きの不透明感が増していった。

一方、トヨタは1991(平成3)年の時点で約160の国・地域で販売を行い、22の国・地域に生産拠点を構えていた。事業活動のグローバル展開は勢いを増し、国際社会とのかかわりがますます強まりつつあった。文化や価値観の違いを超えて世界各国・地域の人々と協力して事業を推進することが非常に重要な課題となっていた。

こうした情勢を背景に1991年3月の専務会で、豊田英二会長は「グローバルな企業としてこれから前進するためには、グローバルに通用する理念・哲学を明示する必要がある。以心伝心で分かり合っていることを文字にし、これに沿って経営体制、組織体制を考えなければならない」と指示し、基本理念を制定することとなった。

基本理念の制定にあたっては、ニュー・ユナイテッド・モーター・マニュファクチャリング(NUMMI)社長など海外経験の豊富な豊田達郎副社長が中心となり、担当専務がサポートする体制とした。豊田章一郎社長からは「時代に沿ったものを目指すのでなく、時代をリードするべきものにしよう」という方針が示され、トヨタが「真の国際企業」となるための針路の策定を図ることとした。

基本理念の草案づくりでは、1990年代後半の国内外情勢などを想定しながら、トヨタが目指すべき方向を現実的に、かつトヨタならではの視点を重視した。そして、豊田副社長と担当専務の検討を経て、7項目の経営指針で構成される「トヨタ基本理念」が和英両文で作成され、1992年1月の社内年頭あいさつで豊田社長から発表された。

このページの先頭へ