第1節 リコール問題への対応

第2項 迅速な取り組み

自動車業界が激しい世論の追及を受け始めた1969(昭和44)年6月、豊田英二社長は社内に向けて、「リコール問題“貴重な体験として生かせ”従業員の皆さまへ 豊田社長」というメッセージを発表した。従業員一人ひとりがトヨタの品質に対する基本理念を再確認するとともに、この貴重な教訓をどう生かすかを真剣に考えてほしいと訴えた。この社長メッセージは翌7月の社内報に掲載された。

リコール車の問題では、日夜業務に精励されている従業員の皆さんに、大変ご心配をかけたことと思います。

この問題について、報道関係の論調、われわれの申し開きについては、すでに多く尽くされていますので、あえて述べません。ただ、次の2つの点を重ねて主張しておきたいと思います。1つは、当社の創業以来の理念のことです。“自動車を大衆の手に”という創業の理念を引き継ぎ、今日までユーザー第一主義に徹してきたこと。第2には、「よい品よい考」のモットーのもとに、よりよい品質のものをより安く、と日夜努力を重ねてきたことです。

今やトヨタの技術は世界の水準をしのぐほどに成長してきました。創業時のことを考えますと、驚くほどの進歩です。しかし、われわれはそれに甘んじようというのではありません。車は今や大衆の足として、いろいろの人に、いろいろな環境のもとで使われています。さらに安全な車、完全な車を目指して努力せねばなりません。

今回の問題も、その意味で貴重な教訓といえましょう。この問題にどう対処し、これをどう生かすかを、一人ひとりが真剣に考えてほしいと思います。

皆さんも、それぞれの立場、持場で、この貴重な体験を生かしてほしい。つまり、管理者は品質コストを十分考え、監督者は仕事のポイントを改めて見直し、個々の従業員は一人ひとりの仕事が世界につながっているのだということを自覚してほしい。そして、ビス1本の締付けもおろそかにせぬ慎重さと、大いなる勇気と自信をもって“世界のトヨタ”へと前進していただきたいと思います。

(『トヨタ新聞』第814号〈1969年7月5日付〉)

また、リコール特別委員会を発足させ、16月17日に委員長の齋藤尚一副社長は「自動車安全に関する特別指示」を全社に通達した。特別指示の内容は、市場情報のチェックから始まって、工程内不良箇所のチェック、工程管理、検査の厳格な実施、そして対策の必要な事項に関する計画の作成と実施まで、広範囲に及ぶものであった。この指示に基づき、6月下旬から7月上旬にかけて、仕入先を含めたオールトヨタ総点検を実施した。

総点検の結果を受けて、保安部品2の範囲をこれまで以上に拡大させ、各部門で対策を実施した。技術部門では、保安部品の図面にSマークを表示して重点的にフォローすることとし、保安部品関係の設計基準を整備し、試験設備の増設、信頼性試験のいっそうの充実を図った。

生産準備部門では、工程能力を確保し、ポカヨケ3(不良品予防)を徹底した。製造部門では、重要工程を指定し作業者登録制を採用するとともに、作業標準など品質標準類の整備や不良撲滅運動を推進した。さらに、購買部門でも仕入先の重要工程を点検し、2次仕入先の指導強化などを行った。

このページの先頭へ