第1節 世界金融危機

第2項 金融危機前夜

自動車産業にとって原油価格の動向は、製造段階でのエネルギーコスト、樹脂などの素材コスト、さらに燃料価格の変動を通じて新車販売にも影響を与える。新興諸国でのエネルギー消費の拡大に伴い、2005(平成17)年から上昇傾向にあった原油価格は、2006年半ばには小康状態にあったものの、2007年に入ると再び騰勢に転じた。原油価格の代表的指標である米国のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)は、同年10月に1バレル80ドルの最高値に達したあと、2008年6月には130ドル台へとほぼ一貫して上昇を続けた。

米国経済は、2000年のITバブル崩壊後に短期間で立ち直りを見せ、好況が続いていたが、2006年末ごろから大きな懸念材料が指摘されるようになった。サブプライムローン問題1である。2007年夏には米国の大手格付け機関がサブプライムローンの組まれた金融商品の格下げを発表し、世界的な金融危機につながる深刻な問題として表面化した。これらのローンは証券化され、金融商品として世界の金融機関や投資家に販売されていたからである。

金融市場の混乱は、信用供与の収縮などを通じ、次第に米国の実体経済にも影を落としていった。また、2007年秋からは為替相場が円高ドル安局面に入り、日本の製造業にとっては、原油価格や原材料費の高騰、米国経済の減速とともに業績悪化の要因として浮上してきた。

こうした状況下でトヨタの2007年度(2008年3月期)連結決算は、小売ベースの世界販売が前期比4.7%増の943万台となり、売上高は同9.8%増の26兆2,892億円と過去最高を更新した。収益面でも、営業利益が2兆2,703億円、純利益が1兆7,178億円と最高を記録したが、増益率は営業利益で1.4%、純利益では4.5%にとどまり、販売増が収益の伸びにつながらない状況は一段と深刻になってきた。

2007年度下期からの米国を中心とした先進諸国経済の減速や、円の独歩高もトヨタの収益力にダメージを与えた。とくに、最大の収益源であった北米は、第4四半期に営業損益が赤字に転落するなど、その影響が顕著に現れた。海外の所在地別営業利益のウェートも北米は前年度の57%から36%へと大幅に低下し、危機の前兆ともいえる状況になってきた。

2007年度決算とともに発表された2008年度の連結業績見通しは、厳しさを増す事業環境を反映して売上高を前期比4.9%減の25兆円とするなど、減収減益の予想であった。また、円高による営業損益への悪化影響を6,900億円と想定したことなどから、営業利益は29.5%減の1兆6,000億円、純利益は27.2%減の1兆2,500億円と、いずれも大幅な減益見通しとなった。しかし、実際にはその後の世界的な金融危機の発生やいっそうの円高進行などにより、3回にわたる大幅な下方修正を余儀なくされるのである。

このページの先頭へ