第4節 グローバルビジョン

第1項 グローバルビジョンの発表

2011(平成23)年3月9日、豊田章男社長は東京で記者会見し、「トヨタグローバルビジョン」を発表した。2008年秋の世界的な金融危機による2009年3月期決算での赤字転落、その後に表面化した品質問題という一連の危機的状況から学び、反省したことを通じ、トヨタは「どんな企業でありたいか」「どんな価値観を大切にしていくのか」をグローバル30万人の従業員で共有するビジョンとして成文化したものである。

ビジョンの策定にあたっては日本だけでなく、北米、欧州、アジア・オセアニア、中国、中南米・アフリカ・中近東と世界各地域でチームを編成し、議論を重ねてつくり上げた。従来のビジョンは、まず日本語で作成し、英語などに翻訳するという手法だったが、このビジョンは従来にも増してグローバルでの共有を意識し、原文は英語でまとめた。トヨタを選んでいただいたお客様に笑顔になっていただきたいという想いを込め、キーワードとして「笑顔のために。期待を超えて。」(Rewarded with a smile by exceeding your expectations)を制定、ビジョンを貫く考え方が簡明に伝わるようにも心がけた。

また、日々の企業活動のなかでビジョンをどう具現化するかを、木の「根」「果実」「幹」に例え、「ビジョン経営」のあるべき姿として整理した。「根」に相当するものは、「豊田綱領」「トヨタ基本理念」「トヨタウェイ」といった創業以来の価値観であり、トヨタのモノづくりの精神である。ついで「果実」はトヨタがグローバルビジョンの具現化によってお客様に提供するものであり、「もっといいクルマ」づくりと、それを通じた「いい町・いい社会」づくりへの貢献を指している。

そうした果実を実らせるには、しっかりとした木の「幹」が必要であり、「安定した経営基盤」を幹になぞらえた。そして、「もっといいクルマ」をつくり、「いい町・いい社会」づくりに貢献することで経営基盤の安定を確保するという循環を回し、「持続的成長」を実現することをトヨタのビジョン経営の基本と位置づけた。

一方、こうしたビジョンの理念や考え方に加え、2015年までの中期的な取り組み方針も数値目標として定めた。同年に向けてトヨタが積極的に攻める地域分野は「新興国」と定め、2010年時点で6対4となっていた世界販売での日米欧と新興国の比率を2015年にはイーブンにし、バランスの良い事業構造を目指すこととした。また、安定した経営基盤の確保に向け、市場の縮小リスクや為替変動への強靭な耐久力を備えた「強い収益基盤」の早期実現も掲げた。

これは1ドル85円、1ユーロ110円という円高環境下で、トヨタ・レクサスの販売台数が750万台という前提を置き、その時の連結売上高営業利益率を5%、営業利益額にして1兆円程度を確保するというものである。豊田社長はビジョン発表の記者会見で、利益率5%は持続的成長へのボトムラインであり、厳しい経営環境でも1兆円規模の営業利益を確保できる体質を早期に構築したい旨を表明した。

このページの先頭へ