第1節 豊田佐吉の発明と考え

第4項 「自働化」の起源

1897(明治30)年に完成した日本初の動力織機「豊田式汽力織機」は、織り出す綿布の質が高く、一定である点が評価され、世間から大きな注目を集めた。

この豊田式汽力織機には、杼に収められた糸巻きのよこ糸が消費されてなくなるか、あるいは切断したとき、自動的に織機を停止する「緯(よこ)糸停止装置」1が装着されていた。

動力織機では、よこ糸やたて糸が切断した場合、ただちに運転を停止しないと、よこ糸が入れられないままにたて糸が繰り出されたり、切断したたて糸が抜けてキズとなった布が織られたりするなどの不具合が発生する。豊田佐吉は、こうした不具合の発生を防止する装置の研究に取り組み、上述の「緯糸停止装置」をはじめ、たて糸が切断しないように張力を一定に保つ装置や、たて糸が切断したときに自動的に織機を停止する「経糸停止装置」など、数々の発明・改良を行った。

1905年に豊田商会が発売した「38年式織機」は、自動織機ではなく、いわゆる普通織機と呼ばれる動力織機であったが、上述のような“不具合の発生を防止する”装置が取り入れられた。38年式織機の特徴をその「説明書」2によってみると、およそ次のとおりである。

  1. 1.「経糸送出装置牽張調整装置」の採用により、たて糸の張力を一定の強さに自動的に調節して送り出すことができた。その効果としては、たて糸の切断が少なくなること、織機の停止時間が減少することなどがあげられる。商品価値の面でも、織りムラがなくて風合が良く、均一な品質の織物が得られた。
  2. 2.たて糸が切断すると、ただちに織機が自動的に停止する「経糸停止装置」を導入した。これにより、機械を見張る必要がなくなり、一人で多数の織機を運転することが可能になった。また、糸が抜けたり絡まったりする品質不良も減少し、織物にキズが生じる恐れがなくなった。
  3. 3.「緯糸停止装置」を採用し、よこ糸が切断するか、なくなったときには、ただちに織機が停止するようにした。2.と同様、機械の見張りを不要にする機能である。

2と3は、異常が発生した場合、織機を自動停止して、品質不良や手直しによる損失などを防ぐ発想であり、豊田佐吉の設計思想は、「自働化」の起源として現在のトヨタ生産方式に生きているのである。3

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