第2節 自動車試作

第3項 A型エンジンとA1型乗用車の試作

1934(昭和9)年5月、1933年型シボレー・セダンのエンジンをスケッチした「A型エンジン」のシリンダーブロックとピストンの鋳物の試作を開始した。シリンダーブロックの冷却水が通るウオータージャケットの中子1の製作に苦労し、大島理三郎取締役が米国から持ち帰った油中子2を参考に、試行錯誤を繰り返した結果、1934年8月にシリンダーブロック鋳物が完成したといわれる。

試作エンジン第1号は、1934年9月25日に完成した。内製部品は、シリンダーヘッド、シリンダーブロック、ピストンなどの鋳物部品に限られ、クランクシャフト、カムシャフト、バルブ、プラグ、電装品などは、シボレーの輸入部品が用いられた。

ところが、試作エンジンをシボレー・トラックに搭載して行った運行試験では、シボレー・エンジンの出力60馬力に対し、48~49馬力しか出なかった。そこで、海外文献を参考にして渦流燃焼室の形状を応用したシリンダーヘッドを設計し、旧ヘッドと交換したところ、シボレー・エンジンを上回る65馬力を実現した。

このA型エンジンの仕様は、表1-1のとおりである。なお、カタログは、モデルとなったエンジンと同様、ヤード・ポンド法の単位で表記されていた。

表1-1 A型エンジンの仕様(1934年)

項目
内容
型式
4サイクル、水冷、直列6気筒、頭上弁(OHV)式
口径
3・5/16インチ(84.1mm)
行程
4インチ(101.6mm)
気筒容積
206.8立方インチ(3,389cc)
実馬力
65馬力(毎分3,000回転)
扭力(注)
150フィート・ポンド(毎分1,300回転-2,000回転)
(注)
トルク。1936年7月23日作成「自動車製造事業法許可申請書」の参考資料「1936年トヨダ箱型乗用車仕様書」では、A型エンジンについて、「回転力19.4kg・m(140フィート・ポンド)(毎分1,300回転-2,000回転)」と記載されている。

乗用車については、当初月産200台を目標に設定して試作に着手し、1934年4月に設計のモデルとして34年型デソート・セダン、5月には34年型シボレー・セダンを購入した。これらを分解・スケッチしながらシャシーとボデーを設計し、同年7月にボデー現図を完成させた。

豊田喜一郎は、乗用車ボデーの設計にあたり、クライスラー系の34年型デソート・セダンをモデルに採用したことについて、およそ次のように述べている。すなわち、ボデー・プレス部品用金型の製作には少なくとも3年を要する見込みであり、その間にスタイルが流行遅れになってしまったら、それまでの努力は無駄になる恐れがある。米国車のスタイル動向を調査した結果、34年型デソートのスタイルは1~2年他車に先んじており、従来とはまったく異なる流線型を採用している。今後の流行に先駆けるものと予測し、これを試作車のモデルとした。

1934年11月には乗用車ボデー後部パネルの設計が完了し、外部業者の指導によりプレス金型の製作を始めた。しかし、その製作には約1年半もかかることがわかり、同じ業者の指導のもと、手作業による打ち出し板金加工でボデーを製作することにした。

こうして、試作開始(1933年9月)から2年足らずで、1935年5月にA1型試作乗用車が完成した。しかしながら、内製の鋳物部品3鍛造部品4のほかは、シボレーの純正部品が用いられた。

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