第2節 自動車試作

第4項 G1型トラック

G1型トラックの試作・発表

1934(昭和9)年7月に乗用車のボデー現図が完成し、これをもとにプレス金型の設計・製作に取りかかっているさなか(同年12月ごろ)、商工省と陸軍省から国策上の理由により、トラック、バスを製造してほしい旨の依頼があった。1この要請にもとづき、豊田自動織機製作所は、1935年3月からトラックの設計を開始するが、それまでには以下のような経緯があった。

豊田自動織機製作所は、既述のように1934年1月29日に臨時株主総会を開催し、自動車事業と製鋼事業への進出を決定した。その決議内容については、臨時株主総会開催前の1月23日付名古屋新聞に記事が掲載され2、2月以降も新聞報道が続いた。これにより、豊田自動織機製作所の自動車事業進出は、自動車業界や自動車行政関係者の知るところとなり、4月には新規参入の豊田自動織機製作所や自動車製造(同年6月、日産自動車に改称)を含む自動車製造関係会社7社が、商工・陸軍の両省から自動車の国産化に関して意見を求められている。

さらに、1934年9月4日には「自動車工業確立ニ関スル各省協議会」3という商工省工務局主催の第7回会合が商工省で開催された。豊田喜一郎は、鮎川義介(日産自動車社長)、加納友之介(自動車工業社長)の各氏とともに意見を陳述した。なお、当日の商工省側出席者は、竹内工務局長ほか7人で、喜一郎の中学校の同期生である坂薫も工政課長として参加していた。

この会合で喜一郎が述べた説明・意見の概要は、次のとおりであった。

  1. 1.豊田自動織機製作所では、1933年9月ごろから自動車に関して機械学上の研究を開始し、現在は乗用車を試作中で、トラックの製作については未着手である。
  2. 2.エンジンは完成したが、サービス部品の補充が数多く必要なため、設計はシボレー・エンジンをそのままスケッチした。
  3. 3.ボデーのプレス金型製作には半年ほどかかる。
  4. 4.最小限月700~800台程度の生産で、米国車と価格的に競争可能である。
  5. 5.政府の援助は考えていなかったが、あれば結構なことである。ただし、補助金は原価低減努力を阻害するので不要である。
  6. 6.どこの会社が自動車事業に成功するかわからないので、すべての会社に製造許可を与えてほしい。

喜一郎は、自助努力を妨げる補助金や参入規制に対して、反対の意見を持っていた。坂課長が「政府が何かやれば、かえって迷惑というのか」と聞き返すほど、自由競争に徹した意見であった。

「自動車工業確立ニ関スル各省協議会」は、1934年10月9日の第13回まで開催され、同月19日には結論を審議する総会が開催された。その結果を受けて、同年11月以降、豊田自動織機製作所にトラックの製造を依頼してきたものと思われる。

こうして、豊田自動織機製作所はトラックも試作することになった。1935年3月には34年型フォード・トラックを購入し、それを参考にシャシーの設計に着手した。すでに33年型シボレー・エンジンをモデルとした乗用車用「A型エンジン」の試作が完了していたので、これをトラックにも用いることを決めた。フレームは丈夫なフォード式、フロントアクスル(車軸)はエンジン搭載との関係からシボレー式、リアアクスルは全浮動方式のフォード式と、それぞれの長所を生かした設計が行われた。半年で試作車を完成するという急な計画のため、間に合わない部品については、シボレー、フォードなどの市販の補給部品を利用して製作の進捗を図った。

トラックの設計は、紡織機部工務室の一部を設計室に充てて進められ、その近くに試作工場を建設した。乗用車の試作と並行して、急遽トラックの試作も行うことになったため、試作工場は屋根があるだけの掘っ建て小屋同然の建物であった。また、トラック足まわり部品製造用に第三鉄工場を設置したが、こちらは鉄骨構造の本建築とされた。

G1型トラック試作第1号は、1935年8月25日に完成した(表1-2)。翌9月には13~18日の日程で、東京、群馬、長野、山梨、箱根方面を1,260㎞走行する試験を実施したところ、リアアクスル・ハウジングのフランジ取付溶接部が折損する不具合が発生し、前途が心配された。

表1-2 G1型トラック・シャシーの仕様(1936年)

項目
内容
ホイール・ベース
141・1/2インチ(3.594m)
キャブ後部より後車軸の中心まで
75・7/8インチ (1.927m)
トレッド
前後とも56・1/2インチ(1.435m)
後複輪のとき71・1/2インチ(1.817m)
全長
217インチ(5.51m)
全幅
61・1/2インチ(1.562m)
自重
2,936ポンド(1,332kg)
積載量
1,500kg

そのような状態ではあったが、1935年11月21・22日の両日、「東京自動車ホテル芝浦ガレージ」4でG1型トラックの発表会を開催することになった。発表用の車両は、11月20日午前5時に刈谷を出発したが、途中でステアリング・サードアームが折損する故障が発生したため、修理に時間が取られ、芝浦の会場には発表当日の21日午前4時に到着した。

G1型トラックは、完成車3,200円、シャシー2,900円(工場渡し価格)で販売されることになったが、それを取り扱う販売体制は、まだ整っていなかった。

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