第9節 量産量販に向けての準備

第2項 自動車輸出とAPA特需

APA特需

東南アジア向けには、いわゆるAPA(U.S. Army Procurement Agency in Japan:在日米陸軍調達本部)特需という形で、大量のトヨタ車を輸出した。APA特需とは、アメリカと東南アジア諸国とが結んだ相互防衛援助協約(MDAP:Mutual Defense Assistance Pact)に基づき、1956(昭和31)年後半から開始された日本車の大量調達をさす。1

APA特需は、日本や東南アジア諸国に供与されている米国製の軍用車を、日本製の新車に切り換えるための調達であった。1957年5月には防衛庁向けトラックの入札が行われ、トヨタ自工は受注からもれた。しかし、1958~62年に実施された調達では、1/4トン積み4輪駆動トラック(ジープ型)を除き、3/4トン積み4輪駆動トラック(FQ15L型、2FQ15L型)、2.5トン積み6輪駆動トラック(DW15L型、2DW15L型)の全量5万1,273台を受注した。

APA特需に関しては、トヨタ自販は受注活動に関与せず、トヨタ自工の営業部が担当した。その後、同業務の拡大に伴い、トヨタ自工では、1960年8月に特需部を設置し、1962年2月には同部を輸出部に改組した。特需の対象となった全輪駆動車は、トヨタグループ企業の協力により生産され、その余裕のある体制が受注を有利に導いたといえる。また、大量生産が実現したことで、操業率の向上と原価低減の効果がもたらされた。

2.5トン積み6輪駆動トラックについては、当初ガソリン・エンジン仕様で落札したが、米軍からの要請でディーゼル・エンジンを搭載することになり、1957年3月に発売されて間もないD型ディーゼル・エンジンの改良を推進した。米軍の厳しい検査基準によりエンジンが評価されることで、貴重な技術的経験が得られ、その成果は2D型ディーゼル・エンジンの開発に利用された。

東南アジア諸国では、APA特需による車両が数多く供給され、トヨタ車は高い信頼性を獲得できた。このことは、のちの輸出にとって大きな支えとなった。さらに、補給部品の輸送に際しての防錆、包装、梱包の規格は、米軍が戦時の兵器・部品輸送から得た経験を基に設定された非常に厳格な基準であった。この規格を達成するための体験は、のちのノックダウン輸出における部品の輸送に生かされることになる。

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