第8節 本格的乗用車トヨペット・クラウンの登場
第1項 S型エンジン搭載の小型車開発
トヨペット・コロナST10型
1957(昭和32)年7月1日、初代「トヨペット・コロナST10型」が発売された。搭載されたエンジンは、世に出てから10年が経ったS型エンジンである。
1947年にS型エンジンが開発され、SA型乗用車、SB型トラックに搭載されたときの最大出力は27HP/4,000rpmであった(表1-31)。その後、S型エンジンは改良され、1957年にコロナST10型に搭載された際の出力は33HP/4,500rpmとなった。ちなみに、トルクについては、5.9kg・m/2,400rpmから6.5kg・m/2,800rpmへと向上した。
表1-31 S型エンジンの改良(1947~57年)
|
最大出力
|
搭載車種
|
---|---|---|
1947年
|
27HP/4,000rpm
|
SA型乗用車、SB型トラック
|
1951年
|
28HP/4000rpm
|
SF型系乗用車、SG型トラック
|
1954年
|
30HP/4000rpm
|
SKB型トラック
|
1957年
|
33HP/4500rpm
|
コロナST10型
|
トヨペット・コロナST10型は、既述のように、関東自動車工業が設計・製造したもので、トヨタ車としては初めて単体構造ボデーを採用した。車両型式のST10は、「S」がS型エンジン搭載を、「T」がコロナ用T型ボデーを、「10」が1番目モデルの標準型セダンを表している。つまり、「S型エンジン搭載初代コロナの標準型セダン」である。なお、この車両型式の設定方法は、1955年11月発売の初代「マスターライン・ピックアップ」(RR16型)、同ライトバン(RR17型)から導入された。
ST10型は、4人乗り小型自動車で、すぐに入手可能な既存の部品を使用して設計したことが特徴である。S型エンジンをはじめ、RS型クラウンに用いられている足まわりや駆動、制動、操舵などの各部品、RR型マスターのボデー部品などを利用した。ST10型の仕様は、表1-32のとおりである。
表1-32 初代トヨペット・コロナST10型の仕様(1957年)
項目
|
内容
|
---|---|
エンジン
|
S型(995cc、33馬力)
|
全長
|
3,912mm
|
全幅
|
1,470mm
|
全高
|
1,518mm
|
車両重量
|
960kg
|
最高速度
|
90km/h
|
- (出典)
- トヨタ技術会『トヨタ技術』1957年12月25日
当時、トヨタ自工では、1,000ccクラスの新エンジンと新小型乗用車を開発中であった。新型エンジンは、P型エンジンとして完成1し、ST10型の発表から2年後、1959年10月にコロナPT10型に搭載された。そして、翌1960年3月にコロナは全面改良され、2代目コロナPT20型が登場した。
新小型乗用車の完成を待たずに、ST10型を開発した事情について、トヨタ自販の神谷正太郎社長は、次のように述べている。
製作陣営であるトヨタ自工は、すでに新小型乗用車を開発中であるところから、ありものの部品を流用して中途半端な車を製造することに難色を示したものと思われる。神谷社長がその反対を押し切り、関東自動車工業に設計・製造を委託することにしたのである。
一方、トヨタ車の販売にあたるトヨペット店は、1957年6月1日までに48店が設立され、全国展開が完了した。販売車種は、「トヨエース」と命名された小型トラックSKB型、マスターラインのピックアップRR16型、ライトバンRR17型の商用車3種類で、中心となる乗用車がなかった。神谷社長は、トヨペット店のために、コロナST10型の開発を強く主張したといえよう。
こうした事情に加えて、関東自動車工業でのマスターRR型の生産が、1956年11月に累計7,403台で打ち切られていた。マスターRR型は、1955年にクラウンとともに発売されたタクシー用乗用車で、関東自動車工業の設計になる車種である。その縮小改造版といえるコロナST10型の製造は、関東自動車工業に対するマスターRR型生産打ち切りの代替策ともなった。