第3節 排出ガス規制への対応

第5項 1975年度規制への対応と1976年度規制の2年延期

トヨタは1975年度(昭和50年度)排出ガス規制対策として、触媒方式とともに複合渦流方式を採用することを決定した。

1975年2月、1975年度排出ガス規制対策車の第1弾として、コロナおよびカリーナの2,000cc車を発売した。いずれも、従来の18R型エンジン(1,968cc、105馬力)を複合渦流方式に改造した19R型エンジン(1,968cc、80馬力)を搭載したものである。

続いて同年5月、センチュリーに、6月にはクラウン2600に、触媒方式による1975年度排出ガス規制対策を実施した。その後も、10月にクラウン2000、マークⅡ、11月にはコロナ、カリーナ、セリカ、カローラ、スプリンターと次々に1975年度排出ガス規制適合車を発売していった。

これらの排出ガス浄化システムの総称は、トヨタグループの総力を結集したという意味を込めてTTC(トヨタ・トータル・クリーン・システム)と決定し、トヨタの排出ガス対策に取り組む姿勢をアピールした。

1975年度排出ガス規制適合車は、従来の車にない複雑な機構を備えており、顧客にとってもアフターサービスを担当する販売店にとっても、初めて接する車であった。トヨタは整備の完全を期し、販売店の全メカニックを対象に教育を行い、高度な知識を持つTTCテクニカルリーダーを全拠点へ配置するなど、受け入れ体制を整えていった。

環境庁は、1976年度規制に対応するメーカー各社の技術開発状況を調査するため、1974年6月、自動車メーカー9社と輸入車組合の代表を呼び聴聞会を開催した。メーカー側が1976年度規制の達成は困難であると主張すると予想されていたため、環境庁の聴聞は、どの程度の規制なら対応可能かがポイントとなった。聴聞会の席上、トヨタは以下のように、技術開発状況を報告し規制値の再検討を要望した。

還元触媒方式を中心に51年度(1976年度)規制への技術開発を行っているが、現状では耐久性に問題がある。また、これとは別に成層燃焼1エンジン、希薄燃焼エンジン2、ガスタービンなども開発しているが、現段階ではまだ規制値を達成していない。排出ガス対策システムを商品化するには、実験室段階でめどがついてから数年間の生産準備期間が必要である。(中略)

50年度(1975年度)規制をそのまま数年間継続し、その後の大気汚染の改善状況や技術開発の進歩、社会経済情勢の変化などを総合的に判断して妥当な規制値を再検討してほしい。3

続いて同年9月、衆議院で「公害対策並びに環境保全特別委員会」が開かれ、その席上、豊田英二社長は次のように語った。

私どもトヨタは、創業以来、よい品、よい考えを基本理念として努力してまいりました。今回の大気の清浄化につながる自動車の排出ガス対策につきましては、メーカーとしての社会的責任を深く自覚するとともに、わが社の総力を結集し、あらゆる可能性を追求しつつ、その技術開発に最大限の努力を傾注してまいりました。(中略)

私どもは51年(1976年)規制を達成することをトヨタの基本方針として、最大の努力を傾注いたしております。(中略)トヨタはこれらのすべてに対しまして、技術力を動員し、(窒素酸化物について)目標を0.25グラム・パー・キロメーター達成の一点にしぼり、研究、開発を実施いたしてまいりました。(中略)

このように社内の研究、開発のみならず、国際的にも評価を加え、考えられるすべてについて研究、開発を実施いたしましたが、現時点では0.25グラム・パー・キロメーターを達成することはできませんでした。(中略)

このような技術的問題のほかに、生産と品質保証という面からのばらつきの問題と、開発目標値と規制値の関係や耐久性の確認、さらには開発より生産に至るまでのリードタイム等を十分御配慮いただきますようお願い申し上げます。

さて、いままで御説明申し上げましたとおり、あらゆる有効と思われます方法につきまして、幅広く検討を加え、研究につとめてまいりました。また今後も努力を続けますので、近い将来独自の方法によって、さらによい結果を得ることを確信いたしております。

つきましては、私どものこのような実情から、51年(1976年)規制値等につきまして若干の要望をさせていただきたいと存じます。

51年(1976年)規制は、50年(1975年)規制のまま、さらに2年間継続されるようお願いいたします。

その後につきましては、50年(1975年)規制による大気汚染減少効果等の実績や、技術開発の進歩及び社会経済情勢の変化等を勘案して、総合的判断に立って妥当な規制値を再検討していただきたいと存じます。

(『衆議院公害対策並びに環境保全特別委員会議事録』3号 1974年9月11日)

その後、環境庁は改めて中央公害対策審議会に1976年度規制の実施を諮問した。審議会は1974年12月、1976年度規制を1978年度まで延期することを打ち出すとともに、ひとまず暫定措置として1976年度規制値を答申した。

環境庁はこの答申に基づき、1975年2月に1976年度規制を告示した。暫定値とはいっても、1㎞走行当たりのNOxの排出平均量が、等価慣性重量41,000kg以下の自動車について0.6g、1,000kgを超えるものについては同じ0.85gという厳しいものであった。

この結果、メーカー各社は、1975年度規制の対応に全力をあげるとともに、1976年度規制、1978年度規制と3段階の対策を講じなければならないことになった。とくにトヨタの場合は、車両とエンジンの数が他社と比較して多いこともあって、信頼性の確立が急務となった。

技術各部および関係会社の開発努力は続いた。エンジン、キャブレターなどを細部にわたって改良し、また、エレクトロニクスを積極的に活用して、最適のパッケージを見出すシステム的な分析を行った。こうして1975年度規制対策の中心となった触媒方式を改良して1976年度規制値を達成するとともに、新たに希薄燃焼方式の開発にも成功した。5

1976年1月、1976年度排出ガス規制適合車の第1弾として、希薄燃焼方式によるカローラ1600、スプリンター1600を発売した。続いて2月には、触媒方式によるカローラ1200、スプリンター1200、およびスターレット、パブリカを発売した。その後も、クラウンをはじめ各車種の1976年度規制適合車を次々に発売した。懸命の技術開発の成果であった。

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