第1節 元町工場の建設とTQCの導入

第5項 TQCの導入

元町工場の完成後、1964(昭和39)年までの5年間に新型乗用車4車種、コロナPT20型、パブリカUP10型、クラウンRS40型、コロナRT40型が誕生したのは既述のとおりである。コロナPT20型の生産開始時における貴重な体験を生かして、1961年にTQC(総合的<全社的>品質管理)が導入された結果、新型乗用車の初期品質は、回を重ねるごとに向上していった。そして、その成果が既述のコロナRT40型として開花した。

トヨタ自工におけるTQCの導入については、第1部第2章の(品質管理体制の確立)で述べたとおりである。TQCを導入した背景と目的について、豊田英二副社長(当時)は次のように語っている。

昭和30年(1955年)初めに、わが国初の本格的乗用車であるクラウンを発売いたし、幸い非常な好評を得ました。そして会社は急速に発展いたしました。

しかし、ここでいろいろな問題が現れてきたのであります。それは、どういうことかと申しますと、人員は2倍になり、生産は約7倍になりましたが、品質の向上は能率の向上に釣り合って進まなかったのであります。また、新人の増加、教育の不徹底、管理者の力不足と未熟練、横の連絡の悪さが目立ってきました。それとともに、同業者間の品質競争が激しくなってきたのであります。

そこで、第1に、トップにおいて品質目標をもっと明確にし、これを従業員に徹底させる必要があること、第2に、部間の機能的な連携が図られるような体制をつくる必要のあることなどを反省いたしたのであります。

この2つの反省のうえに立って、従来からやっておりましたQCを、さらに全社的なものとして推進することに決心したのであります。

(豊田英二「TQC導入を決意するに至った経過」〈1965年9月のデミング賞実地調査時の説明〉)1

既述のとおり、減少傾向にあった1台当たりのクレーム費は、元町工場の1期工事が完成した1959年には増加に転じた。そして、1960年3月に発表した新型コロナPT20型の体験を契機にして、品質管理委員会で対策が検討され、翌1961年6月にTQCが導入されることになった。TQCは全員参加による経営管理の改善を目指し、次の方針が掲げられた。

  1. 1.品質意識と原価意識を高めるとともに、機能別管理体制を充実する。
  2. 2.新製品について企画の充実と立ち上がりの円滑化を図る。
  3. 3.トヨタ自販や仕入先各社との協力を緊密にする。

まず、品質管理部を中心にQC(品質管理)の教育普及にあたるとともに不良品半減運動を推進し、製造現場の第一線では各職場の監督者(工長、組長)を中心に身近な問題について勉強会を行った。「品質は工程で造りこむ」という考えが次第に製造部門に浸透し、事務部門、技術部門ではQC的な管理手法(管理のサイクル)の普及や、部門間の連携強化が図られた。

TQC導入から1年を経過した1962年7月、第1回全社監査が行われた。社長以下全役員と品質管理指導講師(オブザーバー)らが各部を巡視して、各部課長から直接、業務運営の実情について説明を受け、管理体制整備の進展状況を確認した。この全社監査の結果、次のような問題点が明らかになった。

  1. 1.会社方針の真の目的についての理解が十分でなく、したがってこれを展開した各部方針が一貫していない。
  2. 2.長期計画の質的向上が必要である。
  3. 3.全般的に「事実にもとづいて物事を考える」という習慣、すなわちQCの手法を駆使してデータをまとめ、それによって判断するという仕事のやり方がまだ足りない。
  4. 4.縦のQCに対して横のQCが弱く、また部間の連携がまだ十分でない。

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