第3節 品質問題

第1項 品質問題の拡大

自主改善とリコール発生

2009(平成21)年8月28日、米国のカリフォルニア州サンディエゴでディーラーが代車として提供したレクサスES350が高速走行中に制御不能となり、土手に激突して炎上し、非番の交通警察官一家4人の乗員全員が亡くなるという事故が発生した。事故の原因は、サイズの合わない別の車種の全天候型フロアマットを留め具に引っかけずに使っていたことから、マットにアクセルペダルが引っかかり全開のまま戻らなくなったためと断定されたが、走行中の車内から警察に携帯電話で衝突寸前の救助を求める切迫したやり取りの音声が報道されるなど、マスメディアに大きく取り上げられた。すると、その直後からトヨタ車の電子スロットルシステムに何か問題があったのかも知れないという憶測が広がり始めた。

サンディエゴ事故の調査と米国運輸省の高速道路交通安全局(NHTSA)との協議を終えた9月下旬、トヨタは、アクセルペダルのフロアマットへの干渉を防止するため、リコールを実施して複数の車種に変更を加えることを決定した。米国トヨタ(TMS)は同年9月29日に、不適切なフロアマットまたは固定されていないフロアマットの危険性について警告するお客様への通知を発行した。さらに、10月5日には、お客様に対してリコールによる是正措置が完了するまで運転席のフロアマットを取り外すようお知らせする予定であることをNHTSAに伝えた。このお客様への暫定的な通知は10月30日に送付が開始された。対象は当初レクサスES350やカムリ、プリウスなど8車種で、後日車種が追加された。フロアマットの交換やアクセルペダルの形状変更、さらに一部車種についてはフロア面の形状も変更する措置とした。1対象台数は、米国で426万台、カナダなどを加えた世界で610万台に及んだ。トヨタとNHTSAはフロアマットの干渉リスクに焦点を当てていたが、電子スロットルの問題の可能性に関するマスメディアの憶測は続いた。

一方、その年の遅くに新たな問題として、以前に欧州だけで見られたアクセルペダルの戻り遅れという現象が米国向け車両で確認された。特定のアクセルペダルを構成する部品が結露した水分によって密着し、ペダルの正常な動きを妨げるという現象が一部の車種において問題となった。この問題についてトヨタは、2010年1月21日にカローラ、RAV4、カムリなど、主力車種を含む8車種のリコールを米国で発表した。また、このアクセルペダルは、カナダ、中国、欧州向けの車両にも使用されていたため、世界で444万台のリコールとなった。

さらに日本で、2009年5月に発売した3代目プリウスのブレーキに、路面の状況によっては運転者の予測しない制動フィーリングが生じることがわかった。走行実験や分析の結果、報告されたお客様の懸念はABS制御のプログラムに起因するものと判明し、車両の制動力に影響を与えるものではないことが確認された。しかし、お客様に安心していただくため、2010年2月9日に同じハイブリッド車(HV)のSAI、レクサスHS250hとともにリコールを発表した。対象台数は、世界で44万台にのぼった。

これらの追加リコールはトヨタの電子スロットルやトヨタの品質に問題があるのではないかというマスメディアの憶測に勢いを与えた。こうした一連の報道はNHTSAが分類する「速度制御の問題」2についてNHTSAへの苦情を増加させる一因となった。

このページの先頭へ