90年代プロジェクトの着手・推進

1975(昭和50)年、トヨタは住宅事業部を新設し、自動車につぐ事業の育成に乗り出した。翌1976年にはトヨタ自工の総合企画室(現・総合企画部)内に住宅以外の新規事業検討グループが設置され、調査を主体とした活動を続けていた。

その後、1982年の工販合併を経て創立50周年(1987年)を目前にした1985年3月、トヨタの1990年代以降の成長方策の一環として新規事業進出を本格的に検討するため「90年代プロジェクト委員会」が設置された。

従来の総合企画室だけの活動から、初めて全社的な規模での新規事業の調査・探査や企画に着手したのである。翌1986年に同委員会は「新規事業プロジェクト委員会」に改称し、トヨタが取り組むべき有望事業として以下の7分野を選定し、それぞれプロジェクトチームによる事業化検討を進めた。

  1. 1.FA(ファクトリー・オートメーション)
  2. 2.バイオテクノロジー
  3. 3.金融サービス
  4. 4.自動車電話(通信事業)
  5. 5.移動体通信機器(製造・販売)
  6. 6.VAN(付加価値通信網事業)
  7. 7.半導体

このうち、移動体通信機器(製造・販売)とVAN事業(回線提供)については時期尚早などの理由で最終的に事業化を断念したものの、他の5分野については新会社設立などの成果が得られた。具体的には1987年の自動車電話会社(IDO=日本移動通信)や1989(平成元)年の金融子会社(トヨタファイナンス)の設立、同年に稼働した広瀬工場での半導体内製化などである。また、新規事業プロジェクト推進の過程で、1987年には光技術で世界的に著名な浜松ホトニクス、FAシステム分野で高い技術を持つサンリツオートメイションにトヨタが出資することとした。

1989年2月には新規事業の推進体制を強化するため、総合企画室内の1グループから独立・拡充した事業開発室(同年8月、事業開発部に名称変更)が新設された。同年4月には、社内に埋もれている新規事業のシーズを掘り起こすべく、新規事業アイデアの「社内公募」を実施した。これは課長以上を対象にし、総提案数は730件と大きな反響があった。

提案されたアイデアから有望なものを抽出し検討を進めた結果、31もの新会社が1990年から数年のうちに設立された。1その結果、10社を超える分社案件や既存の子会社などでの事業化に結びついた。分社案件の事例としては、まず1990年に社内ベンチャー第1号として、半導体向けを中心としたセラミックス粉末の製造・販売事業のアドマテックスの設立がある。このほか、相次いで設立された新会社は表3-1のとおりである。

表3-1 設立された新会社

  1. 自動車生産エンジニアリング事業
BPA
MTA
(以上2社は現・トヨタプロダクションエンジニアリング)
トヨタマックス(現・トヨタテクニカルディベロップメント)

  1. システム事業
トヨタシステムリサーチ
トヨタシステムエンジニアリング
トヨタシステムインターナショナル
トヨタケーラム
(以上4社は現・トヨタコミュニケーションシステムおよび子会社)
トヨタデジタルクルーズ

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