第4節 石油危機への対応

第6項 レーザーエンジンの開発

排出ガス浄化技術の研究・開発をとおして、燃焼技術や制御技術などのエンジン技術は大きく進歩した。一方、排出ガス対策によって自動車の性能や燃費は悪化し、その回復を期待する市場の要求が強まってきた。

また、モータリゼーションの進展により、乗用車はタクシーユーザーよりも個人ユーザーに大きなウェートが置かれるようになった。タクシーに使われる車は、頑丈で壊れにくいものが求められるが、個人ユーザーには良いレスポンス、走りの軽快さ、メンテナンス・フリーなどの車が求められた。

このような背景のもと、トヨタは1978(昭和53)年の会社方針に「魅力ある商品づくり」を掲げ、排出ガス規制への適合とともに、走りや燃費の向上をねらったエンジン開発に取り組んだ。小型軽量、高性能、低燃費、低騒音、良い応答性、メンテナンス・フリーを設計の柱として、新エンジンの開発をスタートした。

この時期の排出ガス対策、低燃費および高出力に関するエンジン関係の新技術・新機構をまとめると図のようになる。

小型軽量化を実現するためには、エンジン各部の限界設計をいかに行うかがポイントとなるため、エンジンを構成する部品一つひとつの見直しを行った。これによって達成したエンジンの軽量化はボデー側の負担を軽減するなど、大きな波及効果を生み出し、アクセルのレスポンス向上と燃費低減に結びついた。

排出ガス対策によって、燃焼室の内部の様子が明らかになるレベルに達していた燃焼の基礎研究、解析技術を生かして、燃焼室の形状や吸排気系、燃料供給系を大幅に改良した。また、タイミングベルトや油圧式バルブラッシュアジャスターなどの新機構を採用し、低騒音化、メンテナンス・フリーも促進した。

こうして新たに開発した6気筒の1G-EU型は、1980年4月、新型車クレスタに搭載された。6気筒でありながら重量は154㎏であり、同クラス4気筒の21R-U型の171㎏よりも軽量となった。

続いて、1981年7月に4気筒の1S-U型(1,832cc、100馬力)を完成した。燃焼室を改良し、各部を大幅に軽量化したほか、有限要素解析法、レーザーホログラフィを利用した新しい振動対策を施し、焼結中空カムシャフト、焼結鍛造コンロッドなど、最新の生産技術を駆使した新規開発部品も数多く採用した。

なお、1S系エンジンの完成を機に、時代の要求に応えた、これら一連の新エンジンに共通の名前を付け、ユーザーにアピールしようという技術キャンペ-ンを企画した。多くの案のなかから選ばれたのが「レーザー:LASRE」である。このネーミングは、ライトウエイト(軽量)、アドバンスト(進歩した)、スーパーレスポンス(応答性が良い)、エンジンの頭文字を組み合せたものであった。こうして、日本で初めてエンジンが商品ブランド(レーザー:LASRE)となった。そして、1980年代の後半以降、次々と新型車に搭載されるレーザーエンジンシリーズにより、トヨタの企業イメージは大きく向上した。

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