第3節 国内市場の急伸長とレクサスの開発

第5項 レクサスの開発

「Yetの思想」と「源流対策」

1989(平成元)年9月、米国で高級車販売網「レクサス」の営業を開始した。同販売網の看板モデルである初代レクサスLS400は、1984(昭和59)年にフラッグシップのFを示す「マルFプロジェクト」の名称で開発に着手した。新チャネル設立の背景には北米現地生産の本格化により自主規制下での輸出枠に余裕が生じるという事情や、トヨタ車のお客様が上級車に移行する際に受け皿となる高級車がなく、メルセデスやBMWに乗り換えてしまうということがあった。

プロジェクトのメンバーは、数カ月間にわたって米国に滞在し、高級車を所有する人のライフスタイルや高級車への期待と要望などを「現地現物」で詳細に調査した。その結果、①ステータス感、プレステージ感をもつ、②高品質、③再販売時(中古車)の価値の目減りが少ない、④高度なパフォーマンス、⑤高い安全性の5項目を満たす必要があると確認した。

基本コンセプトは「世界トップレベルのハイパフォーマンス・ラグジュアリーカーの創造」とし、社内の技術開発や生産技術、製造、営業などの関係部門だけでなくグループ各社や仕入先とも一体となって、その実現に取り組んだ。開発にあたっては、妥協を許さず矛盾する要素をも両立させる「Yetの思想」と、問題が生じればその根本までさかのぼって解決する「源流対策」を徹底させながら未知のゾーンに挑んだ。

1987年5月には8回の提案を経たLS400の最終設計が承認され、V8型4,000ccエンジンのプロトタイプを搭載した試作車のテストも始まった。振動と騒音を抑えるためにボデーに制振鋼板を採用したほか、プロペラシャフトの高精度な製造法などを開発した。また、量感を備えたデザインでありながら、空気抵抗係数であるCD値0.29というトップレベルの空力性能を実現するため、窓ガラスやドアハンドルはボデーと隙間が生じない設計とした。

生産を担当する田原工場では、分散処理型の「新アッセンブリー・ライン・コントロール(ALC)」をレクサスの立ち上げにあわせて導入した。これは従来の本社一括管理方式に対して、ボデーや組立などのラインごとにサーバーで管理するシステムである。生産指示をきめ細かくタイムリーに各ラインに伝えることが可能になり、各ラインで問題が発生した場合も即応できた。

生産技術部門では、車両品質向上のため板厚や防錆処理の異なる複数のボデー鋼板をレーザー溶接し、さらにプレス一体成形する工法を開発した。また、シリンダーブロックの鋳造法として、金型の減圧によりアルミニウムの低温状態での注湯充填効率を高め、強度の向上と鋳造時間の短縮が可能な工法も実用化した。開発期間は足かけ6年に及び、製作したクレイモデルは約50台、試作車は約450台、走行テストは350万km余りというプロセスを重ねLS400は完成したのだった。

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