第3節 「第2の創業」―社内改革の推進

第2項 「第2の創業」に向けて

基本理念の改定

1992(平成4)年1月の「トヨタ基本理念」の制定と同時に、豊田章一郎社長を委員長とする「企業行動倫理委員会」と「トヨタ環境委員会」が発足した。両委員会を設置した趣旨は、理念を具体的な行動につなげる体制づくりの一環であった。同年6月の役員研修会では、基本理念の各項目に該当する経営課題と対応策を中心に議論を深めた。また、新入社員から部次長に至るすべての社員研修、関係会社や取引先との懇談会などでも、基本理念の共有を目的とする活動を展開した。1

1992年9月、工販合併以来10年ぶりにトップの交代が行われ、豊田英二会長が名誉会長に、豊田章一郎社長が会長に、豊田達郎副社長が社長に就任した。豊田新社長は、基本理念を踏まえて次のように抱負を述べている。

「『基本理念』に沿った企業活動を進める中で、個人の尊重に基づくいきいきとした企業風土づくりに努め、“目配り、気配り、心配りの利いた、しかも夢と独創性に富んだトヨタ”を創り上げていきたい。具体的には長期安定的な経営基盤づくりをはじめ、地球環境問題への対応、社会のニーズに応える技術開発、共存と共栄を目指した国際化の推進などを重要課題として取り組みたい。また、経営に当たっては常に『対話』と『誠意』を念頭に置き、多くの課題に対して事の本質を冷静に見極める慎重さと、変化に大胆に立ち向かう勇気を持って、着実に対応していきたい」

豊田達郎社長の就任時はバブル崩壊後の混乱期にあたり、新車需要が冷え込んでいった時期であった。トヨタの業績も低迷が続いていたが、1994年12月中間期になって連結業績は5期ぶりの増益を達成した。1995年2月のこの決算発表を受けて、豊田達郎社長は社員向けメッセージのなかで「私はこれから21世紀初頭にかけての時期を、『新たな飛躍に向けた第2の創業期』と位置づけている」と述べた。折から急激な円高が進行しつつあり、待ち構える難局は「創業期」に匹敵するものであり、それを一丸となって乗り越えようと訴えたのである。

1997年4月には基本理念の部分的な改定を実施した。すでに基本理念は制定後5年が経過し、経営指針として、また社員の行動指針として定着していたが、経済団体連合会(経団連、現・日本経団連)が前年12月に「経団連企業行動憲章」を改定したのがきっかけとなった。当時、経団連の会長は豊田章一郎会長が務めており、行動憲章の改定は相次ぐ企業の不祥事や規制緩和の進展による自己責任重視の流れなどを受けて行われたものであった。このような点を考慮し、「トヨタ基本理念」の見直しでも「内外の法およびその精神を遵守」「各国・各地域の文化や慣習を尊重」「労使相互信頼・責任を基本」などの文言を加えた。改定後の「トヨタ基本理念」は表3-2のとおりである。

表3-2 「トヨタ基本理念」改定(1997年4月)

1.内外の法およびその精神を遵守し、オープンでフェアな企業活動を通じて、国際社会から信頼される企業市民をめざす。
2.各国、各地域の文化・慣習を尊重し、地域に根ざした事業活動を通じて、経済・社会の発展に貢献する。
3.クリーンで安全な商品の提供を使命とし、あらゆる企業活動を通じて、住みよい地球と豊かな社会づくりに取り組む。
4.様々な分野での最先端技術の研究と開発に努め、世界中のお客様のご要望にお応えする魅力あふれる商品・サービスを提供する。
5.労使相互信頼・責任を基本に、個人の創造力とチームワークの強みを最大限に高める企業風土をつくる。
6.グローバルで革新的な経営により、社会との調和ある成長をめざす。
7.開かれた取引関係を基本に、互いに研究と創造に努め、長期安定的な成長と共存共栄を実現する。

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