第5節 たび重なる苦難と試練

第2項 続く試練

タイの大洪水

東日本大震災からの生産復旧が整い、トヨタがグローバルで挽回生産に入った矢先の2011(平成23)年10月、日本の自動車産業は再び自然災害による多大なダメージを受けた。同年7月から約4カ月にわたってタイを襲った大洪水の被害が同国の部品産業を中心に広がり、ここでもサプライチェーン(部品供給網)が寸断されたのである。

幸い、トヨタの現地生産・販売会社であるトヨタ・モーター・タイランド(TMT)のサムロン工場など3工場とバンコクの事務所はいずれも無事であった。しかし、各地の工業団地が浸水の被害に遭い、多くの部品企業などが生産停止に追い込まれた。10月からはその影響が顕著になり、上旬にはTMTが稼働停止を余儀なくされる事態となった。さらに同月末までにはインドネシア、フィリピンなどアジア各国のほか、日本、北米、南アフリカへと影響が広がり、これらの国々のトヨタ生産拠点では、部品の供給状況に応じた稼働レベルの引き下げや定時稼働を実施した。

東日本大震災時を再現するかのように、またも仕入先や同業他社との協力を含む懸命な復旧作業が展開された。その結果、11月下旬にはTMTが稼働レベルを調整しながらも生産を再開し、日本や北米では通常レベルへの生産に復帰することができた。さらに2012年の年初にはTMTも正常生産に戻った。しかし、大震災からの挽回生産に入った直後だけに影響は大きく、トヨタはグローバルで26万台の生産機会を逸することになった。

洪水被害に対して当社は2,000万バーツの義援金供出を決定し、11月に豊田章男社長がタイ国宮内庁を訪れ、王室財団に贈呈した。あわせて豊田社長は、TMTのサムロン工場で対策状況などを確認するとともに、同社従業員を激励した。

アクシデントはあったものの、トヨタではタイが重要な事業拠点という位置づけはいささかも変わらず、2012年1月にはTMTなどでの能力増強計画を発表した。TMTは、年7万台の設備をもつゲートウェイ第2工場を新設し、2013年半ばに稼働させる。また、TMTなどが出資するタイ・オート・ワークス(TAW)は2010年6月から生産休止中だったものの、新たな設備投資を行い、2012年末から年2万台規模で生産を再開するという内容であった。一連の投資により、タイでの生産能力は2013年半ばには年76万台に増強される見込みとなっている。

このページの先頭へ