「試作研究と製作準備命令」に基づく試作

乗用車の製造が制限されるなかで、将来に向けた技術開発を進めていくため、豊田喜一郎は、1940(昭和15)年9月13日に「試作研究と製作準備命令」を指示した。その前文では、「当社は時勢の変転に伴い、将来は本製作を必要とする時代の来たらんことを予想して、試作研究をなすべし」と技術開発の必要を訴え、具体的に「当社が将来作り得る自動車種類」を提示した(表1-11)。この「命令」に基づいて研究に取り組み、機会のあるたびに、以下のような乗用車や特殊車などの試作を行った。

表1-11 「試作研究と製作準備命令」に示された自動車種類(1940年)

①トラック

シャシー長さ
エンジン種類
3.3m(GB型トラック)
現在のもの75馬力
3.6m(GB型トラック)
75馬力
4.0m(4トン積みKB型トラック)
75馬力または85馬力
長尺物
85馬力

②乗用車(セダンと幌の2種)

シャシー長さ
エンジン種類
大型1号(AA型乗用車)
75馬力、現在使用のもの順次減少
大型2号(AC型乗用車)
75馬力、新型設計のもの
中型1号(AE型乗用車)
4シリンダーのもの、現在試作中のもの
中型2号
2,000cc特別設計6シリンダー、将来設計せんとするもの
中型3号(BA型系電気自動車)
蓄電池モーター、現在研究中のもの
小型1号
2,000cc6シリンダー将来研究のものを4シリンダーとする
小型2号(EA型小型乗用車)
D.K.W.、現在試作中のもの
小型3号(EC型電気自動車)
蓄電池モーター、将来研究

1.乗用車大型Bと中型BC-Ⅲ型の試作

1942年11月には高級乗用車「大型B」の企画内容が決定し、翌1943年5月に設計を完了した。大型Bの試作車が完成し、公式運行試験を行ったのは、1944年1月である(表1-12)。

表1-12 高級乗用車「大型B」の仕様(1944年)

項目
内容
エンジン
B型改(3,389cc、85馬力、圧縮比6.9)
ホイール・ベース
3,300mm
全長
5,750mm
全幅
1,920mm
全高
1,825mm
車両重量
2,200kg

中型BC-Ⅲ型乗用車は、1943年11月に設計が完了し、1944年2月に試作車が完成した。BC-Ⅲ型の仕様は、表1-13のとおりであった。

表1-13 中型BC-Ⅲ型乗用車の仕様(1944年)

項目
内容
エンジン
F型(2,585cc、55馬力、圧縮比6.0)
ホイール・ベース
2,800mm
全長
4,645mm
全幅
1,750mm
全高
1,650mm
車両重量
1,400kg
(注)
  F型エンジンは、C型を改良したエンジン。

2.電気自動車の試作

刈谷の電装工場では、喜一郎の指示により、1940年から電気自動車の開発を開始し、ガラス捲き線を用いた不燃電動機の試作を行った。そして、同年8月にはEA型小型乗用車のシャシーに、東京芝浦工場製の蓄電池と、電装工場製の不燃電動機を搭載した電気自動車が完成した。この試作車はEC型電気自動車と呼ばれ、充電1回当たりの走行距離は60kmほどであった。1

1941年に喜一郎がトヨタ自工の社長に就任すると、電気自動車は社長直轄の研究項目となり、電装工場で研究が続けられた。1940年に開発したBA型系乗用車シャシーを利用し、内製の蓄電池と電動機を装備した電気自動車6台を試作した。2

喜一郎は、既述のとおり、電気自動車の基本となると蓄電池やモーターの研究・製造を行い、その技術を利用して電気自動車の開発を促進した。

3.特殊車の試作

1937年12月、東京芝浦研究部で中国大陸向けDC型大型バスの設計に着手した。1938年11月には試作車1台が完成し、1939年2月に天津へ輸送された。特異な仕様の大型バスであり、その内容は表1-14のとおりである。

表1-14 DC型大型バスの仕様(1939年)

項目
内容
型式
全6輪、後輪2軸4輪駆動
エンジン
A型(65馬力、2基搭載)
ホイール・ベース
5,000mm
全長
8,300mm
全幅
2,400mm
全高
2,700mm
トレッド
前輪1,950mm、後輪1,893mm
シャシー重量
1,850kg
総重量
6,050kg
座席
客席42席、牽引車両42席
(出典)
「トヨタ自動車製造計画車両一覧表」、「旧東京トヨタ写真C(1/2)」、「DC型大型バス」(以上、当社内文書)。トヨタ広報誌『流線型』1939年3月

また、KC型トラックの開発と並行して、1942年10月からこれを改造した4輪駆動KCY型トラックの設計を開始した。試作車は1943年6月に完成し、同年8月には公式試運転を行った。走行試験の結果は良好であったが、生産は4台で打ち切られた(表1-15)。

表1-15 KCY型4輪駆動トラックの仕様(1943年)

項目
内容
型式
4輪駆動
エンジン
B型(78馬力)
変速機
前進4段、後進1段
副変速機
2段切り替え
ホイール・ベース
4,000mm
全長
6,510mm
全幅
2,210mm
全高
2,220mm
車両重量
2,900kg
(出典)
「トヨタ自動車製造計画車両一覧表」(当社内文書)

スキ型4輪駆動水陸両用車は、このKCY型トラックをベースに開発されたもので、1943年11月~1944年8月に198台を生産した。このように、KCY型4輪駆動トラックのシャシーは、以後のトヨタ全輪駆動車技術の基礎となった。

1944年4月にはAK10型小型4輪駆動トラックの設計を開始した。同年7月に6台の試作車が完成したが、本格生産に向けて準備中のところで敗戦となり、生産計画は中止された。戦後、ジープ型全輪駆動車の開発に際して、このAK10型の設計技術や残存部品が大いに役立った(表1-16)。

表1-16 AK10型小型4輪駆動トラックの仕様(1944年)

項目
内容
型式
4輪駆動
エンジン
C型(4気筒、2,258cc、50馬力)
変速機
前進3段、後進1段
副変速機
2段切り替え
ホイール・ベース
2,300mm
全長
3,360mm
全幅
1,570mm
全高
1,800mm
トレッド
前後とも1,300mm
車両重量
1,100kg
積載量
500kg
(出典)
「トヨタ自動車製造計画車両一覧表」、「AK10型四輪駆動トラック」(以上、当社内文書)

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